「ルルーシュ!」

苦痛とも言える昼休みも終わりに近づき、ルルーシュの気分を害する声の主が自分のクラスに帰って落ち着いたのもつかの間。
背後からかけられた声にルルーシュは再び眉を顰めることになった。
「…スザク」
「ルルーシュ、次の数学の宿題写させて」
予想していたこととはいえ、スザクの言葉にがっかりしている自分にうんざりする。
どうせお前は私をいつも言うことを聞くただの幼馴染程度にしか思ってないんだろうな。
「宿題は自分でやるものだろう」
「そうだけど…昨日も今日の朝も部活の練習でつぶれたからやってる暇なくて」
お願いだよ、と頭を下げるスザク。

この殊勝な態度が演技だと見抜いているのはきっと私だけだ。
物心ついたときから常に一緒に過ごしてきたルルーシュは知っている。
スザクは決して聖人君子などではない。
女の子達の憧れの的。クラスの人気者。
そんな称号はスザクの本性を知るルルーシュには意味のないものだ。
本当のスザクはいつも強引で、自己中心的で、言葉遣いだって乱暴で。
女の子たちには優しい、なんて言われているけど、ルルーシュには一度だって優しく接してくれたことなんかない。
幼馴染だから、本性を知っている人間だから、とスザクはルルーシュをまるで自分の物であるかのように扱う。
スザクにそう扱われることは悲しかった。
自分も他の女の子達と同じように接してもらいたい。
だけど、スザクの裏の顔を知っているのが自分だけだということに喜びを感じているのも、動かしようのない事実だった。

思いを逡巡させて、ルルーシュははあ、と溜息をついた。
せめてもの抵抗にと断りの言葉を口にしてみたものの、初めから自分にそんな気がなかったことはルルーシュ自身よくわかっている。
どうせスザクには逆らえない。
何より、ルルーシュはスザクのお願いに弱かった。
いつも貧乏くじを引かされている気がしないでもなかったが、演技だとわかっていてもスザクがしょげた犬のように頼み込んでくるこの状況で、ルルーシュがスザクに勝てたためしはなかった。
「仕方ないな…今日だけだからな」
「やった!ありがとう、ルルーシュ」
本当に嬉しそうににっこりと笑ったスザクに、ルルーシュは思わずどきりとする。
落ち着け、スザクは純粋に喜んで笑っただけだ。いや、違う。これは演技だ。
別に私に向けて微笑んだわけでもなんでもないんだから。
しかしルルーシュが内心で必死に言い聞かせてみても、自分の頬は意志に反してしだいに熱を上げていく。
赤くなった顔を見られないようにと顔を背けながら、スザクの腹にノートをぐいと押し付けた。
「こ、これでいいだろっ」
「うん、じゃああとで返すから」
スザクはノートを受け取ると、ルルーシュの横を通り抜けて自らの席へと向かう。
その時、すれ違いざまに耳元で小さく囁かれた言葉にルルーシュは硬直した。

「ありがとうね」

〜〜〜〜っ!!
なんでわざわざ耳元で言うんだ!
いつもいつも、私をからかうためにやっているとしか思えない。
彼女がいるんだから、そういうことは彼女にしてやればいいのに。
幼馴染の私にはそんな態度をとらないでほしい。
だって期待するじゃないか。
私にも周りの女の子達と同じ態度で接してくれるんじゃないかって。
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あまり書けてませんが、この連載は俺スザク設定です。
ちなみに俺スザクはルルに対してだけで、周囲に対しては白スザクです。