派手な宴も終わり、それぞれの男達がお気に入りの妓たちを引き連れてそれぞれの部屋へと引き上げていく。
スザクもまた、最近水揚げを済ませたばかりの若い遊女をともなって去っていった。
もっとも、彼の瞳はルルーシュを強く見つめたままだったけれど。
全員が引き上げると、ルルーシュとシュナイゼルの二人だけが広い部屋に残された。
当然だ。ここから先は、夜が始まるのだから。

「ずいぶん彼と親しいんだね」
「え?」
「枢木君のことだよ」
ゆっくりと羽織を脱ぎ、シュナイゼルはそれをルルーシュへと手渡した。
ルルーシュは何食わぬ顔でそれを受け取って、丁寧にたたみはじめる。
「…ええ。まあ、幼馴染でしたから」
「君が私以外に微笑むのを初めて見たよ。そんなに大事かい?」
「大事とかそういうのではありません。それに私はシュナイゼル様以外の人にだって微笑みますよ。仕事なんですから」
「へえ、そうかな?」
今まで穏やかに話していた彼の声が一段低くなる。
それは彼の不機嫌さを表しているということをルルーシュは知っていた。
「彼を見る君の瞳は、まるで恋焦がれる想い人を見つめるようだったよ」
「そんなことありません」
できるだけ彼を刺激しないように、そっけなく、未練もなく答えたつもりだった。
が、それがお気に召さなかったらしい。
彼は秀麗な顔を僅かに歪めて、嘲るような表情を見せた。
「…まあいいさ、それも手練手管なんだろう?私と彼を落とすための」
「違いますっ!」
「どこが違う」
あわてて否定したルルーシュをひどく冷たい声が遮る。
彼の相貌に宿る光にはもはや優しい色など残っていなかった。
「私の気を引きたかったんだろう?彼と話している間も、あんなに物欲しげな目で私を見つめていたくせに」
「!それは…」
見られていたのだ、シュナイゼルに。
密かに彼を想って視線を送っていたことを。
「それは…っ、」
違うのだ。そんなつもりではなかった。
彼のことが欲しいだなんて、そんな大それたことは考えていない。
だって、どんなに手を伸ばしてもその手が届く人じゃないとわかっているから。
けれど彼を想って見つめていたことは事実だったから、否定したくてもできなくなってしまう。
言葉を捜して黙り込んでしまったルルーシュを、シュナイゼルは冷たい瞳で見下ろしながらゆっくりと近づいていく。
そのまま見事な重ねの刺繍襟から覗く白い首筋にそっと顔を寄せて、彼は残酷に笑みこぼれる。

「もういい。そんなに私が欲しいなら、今からたっぷりあげるよ」

―――ルルーシュを縛る優しい悪魔の囁きが、ゆっくりと落とされた。


「ひっ…、あ…」
夜陰を引き裂く甘い嬌声が座敷に満ちる。
闇夜を明るく照らす月の光が、細く開いた障子戸の隙間から入り込み、褥の上で淫らに蠢く二つの影を浮かび上がらせていた。
「あ、…あっ…んっ」
太夫に与えられた一等上等な布団の上で、シュナイゼルはルルーシュを組み敷き、思うが侭に蹂躙していた。
「や、ああ、…っあ」
「…ルルーシュ、っ」
熱に浮かされた体が暗闇に白くぼんやりと浮かび上がるのが、ひどく美しい。
体中に散らされた赤い所有印が白い肌によく映えて、その美しさによりいっそう花を添えていた。
「…はっ、もう…」
散々に攻めたてられたルルーシュの体は限界を訴え、もはや声も掠れていっそ痛々しいほどだった。
それでも大きく突き上げてやれば、幾度となく絶頂へと上り詰めた体はほんの少しの刺激にも敏感に反応を返し、内部をきゅっと締め付ける。
その締め付けに持っていかれそうになるのを眉をひそめて堪え、内部に埋めた自身を一度ぎりぎりまで引き抜いて、ルルーシュが喪失感に息を吐いた瞬間を見計らって一気に根元まで突き入れた。
「ああっ!、あ…」
快楽のあまり目の前が見えないほどに意識を飛ばしかけているルルーシュに、もっと自分を刻み付けてこちらを向かせてやりたいという嗜虐的な考えが頭をよぎる。
「おねが…、ゆる…し…て」
紫水晶の瞳からボロボロと涙をこぼしながらルルーシュは必死に懇願する。
もう何度達しただろう。
もう何度やめてくれと頼んだろう。
終わりの見えない過ぎた快楽が、ルルーシュを苛む。

時折シュナイゼルが見せる裏の顔。
それは彼が不機嫌な時に、もしくは彼の気まぐれによって現れるもう一つの人格とも言ってよかった。
そういう時の彼は、決まってルルーシュを手酷く抱いた。
触れる指も愛撫を施す舌もルルーシュの都合などお構いなしに動き、ルルーシュを無理矢理に暴いた。
何度泣いて懇願しようとも決して止まることない行為は、朝まで続くことも珍しくなかった。
しかし、そんな乱暴な行動の最後にはいつも優しい労りが待っていた。
泣きつかれて半ば気を失うようにして眠りに落ちるルルーシュの頭を、いつも彼は優しく撫でてくれた。
だからこそ、ルルーシュには彼がわからなかった。
あんな風に自分を抱くくせに、どうして優しくするのだろう?
ルルーシュを散々にを暴いた手が、どうして慰めようと動くのだろう?
「も…だめ、やっ…あ…」
過ぎた快楽で目の前が真っ白になり、何も考えられなくなる。
最後とばかりに勢いよく突き上げられて、びくりと大きく体を震わせてルルーシュは極みに達した。
「…っは、…っ」
長時間責め続けられた体はすでに限界で、これ以上は無理とばかりにルルーシュは瞳を伏せてぐったりと横たわっている。
そうやってすでに意識を飛ばしかけていたルルーシュの頭に、そっと手が添えられた。
(あ…)
彼の手だ。
大きくて温かくて、それでいて他の人より少しだけ冷たい手。
その感覚にルルーシュは安堵を覚えて、静かに目を閉じた。
頭の上の大きな手がゆっくりとぎこちなくも髪の合間を撫ぜ、少し低い彼の体温を伝えてくる。
そしてルルーシュの意識が途切れる刹那、
「ルルーシュ…」
優しい声を、聞いた気がした。
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解説。水揚げ→初めて客をとること。
R18がまたもや中途半端ですいません。