ルルーシュが始めてこの世界に足を踏み入れたのは、十五の時だった。

ルルーシュは、江戸にある小さな商家の生まれだ。
物心ついた時にはすでに父はおらず、女手一つで店を切り盛りする母を妹と支える暮らし。
確かに裕福ではなかったが、母と妹との三人暮らしにルルーシュは満足していた。
父がいない理由を母は語ろうとしなかったから、別に聞きたいとも思わなかった。
そんなささやかな暮らしが壊れたのは、ルルーシュが十四の時。
母、マリアンヌが労咳に倒れた。
決して治ることのないと言われたその病気は、確実に母の体を蝕んで。
懸命の看病も空しく、母は病魔に犯されてから一年足らずでこの世を去った。
それからしばらくして、妹、ナナリーも病魔に倒れた。
医者の話によると原因不明。
わかったのはおそらく精神的なものからくる心の病、ということだけ。
母を失ったショックから心を閉ざしてしまった妹を抱えて、姉妹二人だけで生きていけるほど世の中は甘くなかった。
三人で支えつづけてきた店はあっという間につぶれ、住む所や食べる物にさえ困る日々が続いた。
このままではいけない。
このままいけば病気のナナリーはもちろん、自分も命を落とす。
せめてナナリーだけでも普通の暮らしをさせてやらなければ、と思っていたところに手を差しのべたのが、今ルルーシュが身を寄せている遊女屋の大旦那だった。

君が遊女となってこの店に入ると言うのなら、妹さんのことはこちらで責任を持って引き取り手を探そう。
医療費の心配もしなくていい。
遊女になるまでの教育も、最高のものを受けさせてあげよう。
君は一遊女から、花魁を目指せばいい。
普通の遊女ならできないことも、花魁ならできる。
君が一人前の花魁となったら、手紙を出すことも、稼ぎを妹に送ってやることもできる。
妹に幸せな暮らしをさせてやりたいのなら、悪い話ではないと思うがね。

最初は躊躇いがあった。
ナナリーのためだけを考えるなら破格ともいえる申し出ではあったが、やはりルルーシュとて年頃の女の子だ。
生きるためとはいえ、男に体を開くことへの恐怖は大きかった。
しかし結局のところ、ルルーシュに選択の余地は残されていなかった。
ナナリーの病状は重くなる一方だったし、たかだか十五の少女に生活費を稼ぐ方法など他になかった。
未知の世界への恐怖と不安を、そして決意を抱えて、一度入ったら決して足抜けできないと言われるこの遊女街へと、ルルーシュは足を踏み入れたのだ。





「…ぁ…っ…ふ…ぅ…んっ」
「ルルーシュ、声を出しなさい」
口に手を当てながらふるふると抵抗するように首を振るルルーシュにシュナイゼルは僅かに苦笑する。
「強情な子だ」
それなら、と口を覆っていた手を引き剥がされて、ルルーシュは声を抑えることができなかった。
「あっ…!や、やあぁぁっ!…ああぁ!」
「…っいい声だ」

こうしてこの人に組み敷かれていることが、まるで夢のようだ。
シュナイゼルに抱かれる度に、ルルーシュはいつも思う。
ここにあるのは愛のある行為ではないというのに、彼の言葉に、愛撫に、体は反応してあまやかに花開く。
囁かれる睦言も本気ではないとわかっているのに、ルルーシュの体を開く一因にしかなりえない。
どうしてこんなに溺れてしまったのだろう。
自分を初めて抱いたのはこの人だった。
だからだろうか。こんな、許されるはずのない感情を彼に抱いてしまったのは。

彼の突き上げる動きがしだいに激しさを増す。
それに引きずられるようにルルーシュは一層高く声を上げた。
「あっ!…ああっん…ふっ、んあっ!」
「…ルルーシュ、っ」
彼も余裕がないのだろう、僅かばかり眉を寄せて掠れた声でルルーシュを呼ぶ。
そんな彼が愛しくて、思わず彼の首にしがみついて絶頂への衝撃に耐える。
「あ、も…っ…だめええっ…!」
「ルルーシュ、いくよ…っ」
これで最後とばかりに彼が最奥目指して突き上げる。
その刺激に耐え切れずにびくりと体を震わせて、ルルーシュは高みへと上り詰めた。
「あっ…っあああぁぁっ!」
「…くっ…っ」

『シュナイゼル』

絶頂の瞬間に唇の形だけで呼んだ名前は、彼の耳に届くことはないのだろう。
いや、届いてしまったら、彼はもう自分を抱くことはしないだろう。
彼は優しくて優しくて、そしてとても冷酷な人だから―――。
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気付いたら何故か続き書いちゃった遊郭シュナルル。
シリーズ化しそうな予感です。
何気に初エロですよ。書いてる時死ぬほど恥ずかしかった…。