「ぎゃあああぁぁーーー!!!」





さっきまで急いで帰ろうなんて考えていたことは、すべて頭の中から吹っ飛んで。
秀麗は外の雷雨から逃げ出すように、半泣きで一心不乱に建物内を駆け抜けていた。
やめて!やめて!
もういやあぁーーーー!!
自分がどこを走っているなんて考えられなくて、とにかく走って走って。
そうして全力疾走していた秀麗は、いきなり前方に現れた人影に勢いよく衝突した。

「いいいいいいやあああぁぁーーーーー!!!」
もうどこの誰だとかそんなことはどうでもいい!
とにかく助けて!
そんな思いで相手の服を掴む。
そうして秀麗はそのまま相手に抱きつこうとした。

「うるさい。とっととその手を離せ」
そう冷たく告げられた声に伴うように、秀麗を引き剥がそうと相手の手が動く。
「や、やだぁーーー!!いやあぁぁーー!!」
それでも縋るものを失うまいと、秀麗は抵抗を続ける。

「俺に抱きついたら、襲うぞ」

途端、秀麗の動きが止まる。
先ほどまで恐怖のあまり乱心していたことなどすっかり忘れて。
涙に霞んだ目で、目の前の人物を見上げる。

「ようやく自分が誰に抱きつこうとしてたか理解したか?」

そう言って目の前で不敵に笑うのは最大の天敵。
自分が混乱のあまり彼に抱きつこうとしていたことを認識するのに時間はかからなかった。

「っせ、せせせせ、清雅!!」
相手を認識するやいなやすぐに離れようとするも、しっかりと腰を抱きとめられて。
「なっ、何するのよ!抱きつくなって言ったのはあんたでしょう!!」
「何を今更。さっきまであんなに熱烈に俺に抱きつこうとしてたのはそっちだろ」
「なっ…!」
秀麗の反応をからかうかのように、嫌味を言い放つ清雅に怒りを覚えるも、彼の言葉は事実で。
何も言い返せず、彼の腕の中で思わず俯いてしまう。

「それにしても、お前が雷が苦手というのは本当だったんだな」

周囲の雨音に紛れるような呟きは、しっかりと秀麗の耳に入る。
その意味を理解した途端、秀麗の頭にもしやという思いがよぎる。
まさか、もしかして。
思いっきり顔を強張らせて、恐る恐る清雅の顔を見上げる。
秀麗の瞳が清雅をとらえた瞬間、にっこりと、しかし嘲るように向けられたその笑みに、絶句した。

「っ清雅!あんたもしかして、私に仕事押し付けたのは…!」
雷が苦手だなどと教えた覚えは全くないが、こいつだったらどこからか調べあげてくるだろう。

「ああ、雷雨になりそうだったからな。」
自らの腕の中にある秀麗の拘束をさらに強めて。
「もちろん嫌がらせだ。お前自ら俺のところに飛び込んできてくれるとは思ってなかったが」

そう告げていかにも嬉しそうに笑う彼は、横暴で、傲慢で、―――そして誰よりも美しかった。
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自分の書く清秀のシチュエーションは全部似てる気がする…