お互いの国の利益のために相手に近づいた二人。
それは二人ともわかっていたはずだった。
今後のためにできるだけ有効な関係を築いて、少しでも相手を懐柔しておく。
もし弱みや秘密の一つでも見つけられたのなら、さらに上出来。
そういう意図を心の底に秘めて、相手に近づいたはずだった。

「君が枢木スザクか?」
「そうだけど。君は?」
「名乗るのが遅れたな。俺はルルーシュ。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア」

互いの家名が背負うもの。その重みは十分に理解している。
日本を統べるキョウト六家の一員たる枢木の跡取り息子と、世界の三分の一を支配し多大なる影響力を誇るブリタニアの皇子。
だから俺たちは、自分たちの国を、そして自分自身の心を守るためにも、お互い必要以上に踏み込んではいけなかったんだ。

というのに、何故だろう。何故この手を振り払えないのだろう。



「ルルーシュ?」
頭上から降り注ぐ声に、今まで思考の遠くへと飛ばしていた意識を引き寄せられる。
「…なんだ?」
すぐ目の前にはスザクの顔。背中にはスプリングのきいたベッドの感触。
俗に言う押し倒されているという状況で、ルルーシュはスザクへ向き直った。
「なんだじゃないよ。僕と一緒にいるのに、どうして僕以外のこと考えようとするかな君は」
臍を曲げたのか、少し眉を下げてスザクは文句を口にする。
実際のところスザクのことを考えていたわけなのだが、面と向かってそんなことを口にしてやるほどルルーシュ自身人がよくない。
そんなことをぼんやりと思っていると、またしても目の前の男は盛大にため息をついた。
「ほら、また考え事してる」
「…悪い」
さすがに目の前にスザクがいるのに意識をよそへやるのはまずかったかと、ルルーシュも反省したが。
「いいよ、別に。今からそんな考え事もできなくさせてあげるから」
は?今何て言った?なんて思う暇もなく、スザクによって体を抱きこまれて。
気付いたら獰猛な獣のように瞳をギラつかせた男の手が、ルルーシュの服へと迫っていた。
「ってちょっと待てお前!」
ルルーシュを引き寄せた動きの俊敏さもさることながら、当然のように体を這い回る手が制服の合わせ目を開いてゆく早さも尋常ではないほどのスピードで。
咄嗟にまずいと静止の声をかけるも、出会ってからこっち常にゴーイングマイウェイなスザクがその願いを聞いてくれるはずもない。
「嫌。待たない」
駄々をこねる子どものように、あっさりと返された答えにルルーシュは一瞬本気で脱力した。
馬鹿かこいつ。
ちらりと頭に過ぎった思いを必死で飲み込む。
スザクに近づいてみてわかったことだが、スザクは本当にあの枢木首相の息子なのかと思えるほどに駆け引きに向いていない性格だった。
好きなものは好き、嫌いなものは嫌い。
やりたいものはやりたい、嫌なものは嫌。
とにかく裏表のない性格というか、はっきり言ってしまうなら自分を取り繕うということをしない、馬鹿正直な奴なのだ。
それは時として美点ともなりえるのだろうが、自分の希望を欲望のままに押し通すスザクの我侭っぷりがルルーシュは正直苦手だった。
嫌じゃない!お前は子供か!と耳元で思い切り怒鳴ってやってもルルーシュの腰をがっちりと抱いたスザクはびくともせず、それどころかルルーシュの肩を掴んでベッドに縫いとめ、その上へと覆いかぶさってくる。
「スザ…っ…んうっ!」
抵抗も文句もすべて飲み込んでしまうほど、荒っぽくて激しいキス。
あますところなく口内を掻き回す無遠慮な舌の動きに翻弄されて、頭の芯がぼうっとなる。
互いの唇の合間からくちゅりと濡れた音が響いて、そのいやらしい音に顔を赤らめた。
飲み込みきれなかった唾液が、ルルーシュの口元を伝う。
「…は、っ」
ようやく解放されたところで呼吸の整わぬまま零した荒い息は、余計にスザクの雄を刺激したらしい。
完全に目の据わったスザクを前にして、ルルーシュはせめてもの抵抗とばかりに声を張り上げた。
「おいやめろ!スザク!あ、ちょっとどこ触って…や、やめっ!」
「嫌。諦めて、ルルーシュ」

何故こんな関係になってしまったのだろう。
最初は、本当に普通だった。
友達として、それなりに親しい関係を築けていたはずだった。
なのに、突然こいつが好きだとか言い出したのがいけないんだ。


『ルルーシュが好きなんだ』

一ヶ月前、生徒会のイベントが終了した後の打ち上げで突然スザクが自分に向けて言い放った言葉。
毎度のことながら会長の無謀すぎる企画がやっと終わって、無事に終わったという安堵と疲れもあったのかもしれない。
あの時のことは必死で記憶から排除しようと意識を働かせたおかげでもあるのか、詳しいことはルルーシュ自身もあまり覚えていないが、とにかくあの夜の自分はおかしかったのだ。
『好きなんだ』
普段とは比べ物にならないほど真摯な瞳で見つめてきたスザク。
その視線があまりにも熱っぽくて、身動きが取れなくて。その時自然なまでにすとんと、心に落ちてきたこと。
このまま時が止まればいい。
我ながら、本当にどうかしていたのだと思う。
ゆっくりと近づいてきたスザクの顔を、ぼんやりと見つめたまま静かに目を閉じて彼を受け入れてしまうくらいには。

そうしてあの夜、自分とスザクはなし崩し的に一線を越えた。
自分でも信じられないが、あの時の真面目な顔を見せたスザクならいいかもしれないと思ってしまったのだ。


「っあ、……ぁ、すざく…」
「ルルーシュ…」
落とされる熱い吐息に、耳に残る囁きに、自分の想いが絡めとられていく。
どうしてこの男を拒めないのだろう。
どうしてこの手を振り払えないのだろう。
こいつが目の前に現れてから、自分の行動も、想いすら自分のものにならない。
拒みたいのに、拒めない。
踏み込んでこないでほしいのに、拒否できない。
自分のすべてが塗り変えられてしまったかのような感覚は、あまりにも心許なくて。
でも同時に、それでも構わないと思っている自分がいるのだ。
「っルルーシュ、愛してる…」
この男の言葉が本当だろうと嘘だろうと、向けられるその想いを心地良いと感じてしまう自分が恐ろしくて苦しくて、ルルーシュは密かに涙を流した。
Back / Top

連載にしようと思って書き留めたセフレちっくなスザルル。
書き留めた段階ではスザクv.s.シュナ様と書いてあったのですが、書いた当時の記憶がすっかり抜けてしまいどんな展開にしたかったのか忘れたので短編化。