何故だ。何故自分がこんな理不尽な目に合わねばならない。
教室の真ん中で、ルルーシュは途方に暮れていた。


ことの始まりは同僚でもある体育教師の一言だった。
「え…今何て?」
「だから次の2年A組の保健の授業を担当してくれませんか、って言ったんです」
予想外の言葉に思わず固まった。
「なんで私が…」
「私が急用で担当できなくなったのですが、あいにくと他の体育科の先生は授業が被っていまして。ちょうど体育の授業ではありませんし、先生は保健医ながら教員免許も持っていらっしゃるじゃないですか」
「確かに持っていますけど…」
それとこれとは話が別だ。
大体、自分が持っているのは数学教師としての教員免許なのだ。
いくら保健医だろうと保健なんて一度たりとも教えたことはないし、そんな面倒くさいことはっきり言ってやりたくない。
断固断ってやると口を開こうとしたのだが。
「あ、すみません。もう行かないと。じゃあお願いしますね、ランペルージ先生。あとで何か埋め合わせはしますから!」
自分の用件だけさっさと告げて半ば言い逃げる形で去っていった同僚の姿を呆然と見送る羽目になったルルーシュは、自分の人の良さを呪った。

あれから結局、ルルーシュは2年A組の教室へ向かっていた。
素直に受け入れたわけではなく非常に不本意な形ではあったが、引き受けてしまった(引き受けざるを得なかった)のだから仕方ない。
まあ普段から保健室を訪れる生徒としか接しないルルーシュである。
たまには高校生たちと触れ合うのも悪くないかと気を取り直し、教室へ踏み込んだのだが。
すぐにそんな馬鹿らしい考えに至った自分を罵倒したい気持ちでいっぱいになった。

「先生!」
「……なんだ」
不機嫌な顔を必死で取り繕って、ルルーシュは手を挙げた生徒を促した。
「先生、さっきの説明がよくわかりませんでした。もう一度お願いします!」
正直またか、と思った。
先ほどからルルーシュが一言説明をするたびに、いちいち聞き返す輩が後を絶たないのだ。
しかもどういうつもりか知らないが、決まって聞き返す箇所には特徴があった。
それは所謂、性的な知識について。
まさか扱う単元が男女の生殖器についてだったなんて思っていなかったルル―シュは、指導内容を確認しようと教科書を開いた瞬間、なにがなんでも断るべきだったと心底後悔したぐらいだ。
中学、高校、大学と学生生活を送り、途中同性の友人にもそれなりに恵まれてきたが、ルルーシュは彼らがことあるごとに盛り上がる猥談に加わることは滅多になかった。
ルルーシュとて男だから不潔だなんだと非難するつもりはないが、あまり関わりたいとも思えなかったし、自分に必要な知識だとも思わなかった。
大人になるにつれ自然と知識だけは身についたが、はっきり言って何度も口にしたい類の説明ではない。
ないというのに、それを知ってか知らずか、生徒たちは狙い済ましたように卑猥な言葉をルルーシュに言わせようとしているようだった。
どうすれば子どもはできるんですかとか、男と女で感じ方はどう違うんですかとか、小学生が聞いたのなら子どもっぽい悪戯で済まされるそれも、男子高校生が口にするにはずいぶんと淫猥な話だ。
おまけに教室のあちこちから向けられる無遠慮な視線。
ルルーシュに突き刺さるにやにやとした笑いは、普段と違う教師をからかってやろうという意図より、ルルーシュ個人を舐めるように見つめるもののように思えた。

「先生!」
…もう我慢ならない。
いい加減限界だ。
「……っお前ら」
こめかみをぴくぴくと引きつらせて、ついにルルーシュの堪忍袋の緒が切れかけた瞬間。

「やめなよ、これ以上は」

背筋をすっと伸ばして立ち上がり、周囲の生徒たちの暴走を止めたのは、一人の生徒だった。
「枢木…」
「いい加減ふざけるのはやめなよ。先生だって困ってるじゃないか」
教室をゆっくり見渡しながら彼はルルーシュに助け舟を出す。
「いや、でも…」
突然のスザクの発言に躊躇いがちに口を開いた生徒を、鋭い視線で睨みつけて黙らせる。
気付けば教室の中で声を発するものはいなくなっていた。
「お騒がせしました、先生。どうぞ授業を続けてください」
「あ、ああ…」
スザクがすとんと席についたのを見届けて、ルルーシュは中断していた授業を再開した。


「すまない、迷惑をかけたな」
放課後、ルルーシュはスザクを保健室まで呼び出して礼を述べた。
あれから授業は問題なく進んだ。
途中わざと質問を投げかける生徒も現れず、就業のベルが鳴ってルルーシュが終了を言い渡すまで生徒たちは真面目に授業を受けつづけた。
「いえ、別に」
「でも礼くらい言わせてくれ。君のお陰で乗り切れた」
純粋に感謝の気持ちをこめて、にこりと笑いかける。
その笑顔を目にしたスザクはふと何かを思いついたようにルルーシュへと視線を向けた。
「ねえ、先生。お礼はいりませんから、その代わりご褒美をくれませんか」
「…褒美?」
怪訝そうに聞き返したルルーシュに、スザクは面白いものを見つけたというような表情を見せる。
「ええ。先生のこと助けたんですから、それぐらいはいいでしょう?」
「え?」
「そうだなあ。さっき皆に言われてたこと、僕にしてくれません?」
「はっ?」
言われた言葉の意味を瞬時に理解できず目をしばたかせたルルーシュの隙を突いて、スザクはすぐ傍にあったベッドにルルーシュを押し倒した。
「お、おい!枢木、何のつもり…」
「ダメじゃないですか、センセ。そんな無防備な顔してちゃ」
それまでのいかにも優等生らしい口調から一転して、ねっとりと絡みつくような声が耳に響く。
突然豹変した教え子の姿に、ルルーシュはただ唖然とするばかりだった。

「男子高校生なんて体力と性欲だけは有り余ったガキなんですから、もっと警戒しないと」

お前は一体誰だ。
嘲るような言葉を、こんなに楽しそうに笑って言う男など見たことがない。
呆気にとられるルルーシュをよそに、スザクの手は遠慮を知らずルルーシュの体をまさぐり始める。
あっという間に手はルルーシュの下半身へと伸び、熱を煽るようにゆっくりと撫で上げた。
「ほら先生、ここがさっき言ってたトコですよ」
「ちょ…枢木っどこ触って…」
「なんだ先生。反応してるじゃないですか」
「う、うそだ…」
「うそじゃないですよ。ほら」
ぎゅっとズボンの上から握りこまれて、ルルーシュは愕然とした。
「やっ、なんで…」
羞恥にカッと頬が染まる。
ルルーシュのそこは服越しにもはっきりわかるほど、固くなっていた。
「もしかして皆にいやらしい言葉を浴びせられて、感じちゃいました?」
「そ、んなわけな…っんあ、っ…」
反論しようとしても、スザクに触れられてしまえば抗議は喘ぎ声に掻き消されてしまう。
普段から性に関することには淡白なルルーシュの体は、与えられる快楽の波に飲み込まれ、歓喜に震えていた。
抵抗がなくなったのをいいことに、スザクはルルーシュのベルトに手をかけて素早く外し、あっという間に下着ごとズボンを引き摺り下ろしてしまう。
「あ…、やめろっ枢木…」
しかしルルーシュの抗議など無視してスザクはおもむろにルルーシュのものを口に含んだ。
「んああぁっ!!」
口の奥までしっかりと含み、唾液を絡めて丹念に愛撫してやれば、口の中に先走りの液が広がる。
それを舌先で吸い取るようにしてやれば、ルルーシュの先端はさらなる雫を滴らせた。
「んああっ…も、だめ…っ」
今まで味わったことのない快感がルルーシュを支配する。
このまますべてに身を任せてしまいたい。
しかしスザクはルルーシュが快楽に身を委ね達する一歩手前で、愛撫を止めてしまう。
「やあっ、なん…で…」
後少しだったのに突然止められて、行き場を失った熱が体内で荒れ狂う。
知らない感覚にルルーシュは涙を流すことしかできなかった。
「平気ですか、センセ?」
翻弄されるルルーシュを嘲笑うかのように楽しげなスザクの声が耳に響く。
「も…やめ…」
「そんなこと言っても、本当はやめてほしくなんかないくせに」
「い、言うな…」
「ねえ、センセ。僕の指が触れてるの、わかります?」
「あっ、や、やめっ」
いつの間にか移動したスザクの手は、ルルーシュの奥まった蕾へと触れていた。
くるりと周りを一通り撫で、スザクの少し角ばった指が内部へと侵入を果たす。
内部を徐々に押し広げられる慣れない感覚に、ルルーシュは腰を震わせた。
「ああっ、あ、…っあ」
「中、すごいビクビクしてる…。気持ちイイですか、センセ」
耳元に低く落とされた囁きにぴくりと背をのけぞらせる姿が可愛くて仕方ない。
想像していた以上に壮絶な色気を放つルルーシュの姿に、スザクはごくりと喉を鳴らした。
「はっ…あ…んっ」
熱に浮かされた瞳から、はらりと一筋の涙が零れ落ちる。
その涙に、抑えようとしていたスザクの雄がずくりと疼いた。
「ごめん、もう我慢できない…っ」
「え?あっ、や、やあああっ!」
自分の切っ先を蕾へと宛がって、一気に突き上げる。
たいして慣らしてもいないルルーシュの内部はスザクの侵入を拒んだが、そんなことに構っていられなかった。
「センセ…っ、気持ちいい、ですか?」
「んっ、ああ…あっ、やっあ」
初めて感じる快楽と痛みに、ルルーシュは意識が混濁する。
そしてスザクが一際強く最奥を突き上げた瞬間。
「や、ああっああああ!」
内部で熱が弾けるのを感じながら、ルルーシュは自らも精を放った。


あれから散々思うままに抱いて、スザクはようやくルルーシュを解放した。
過ぎた快楽にルルーシュは気を失ってしまっている。
「ごめんね、先生」
ベッドの縁に腰掛けて、倒れるように眠りにつくルルーシュの目元をそっと撫ぜる。
「でも、先生がいけないんだからね」
僕以外の奴にいやらしい言葉を向けられる先生を黙って見ていることなんてできなかった。
先生は僕のことだけ見ていればいい。
「先生のこと虐めていいのは僕だけなんだから」
ぽつりと呟いた声はルルーシュには届かなかった。
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純粋無垢な保健医ルルーシュに性の手ほどきをしてあげる生徒スザク。
この話を思いついたきっかけはオフ友のみぞ知る。