聖バレンタインデー。
それは甘いチョコレートの贈り物に想いをのせて、大切な人へ愛を囁く日。




仕方のないことだとわかっていた。
クラブハウス内の自室で手元の時計を眺めていたルルーシュは重いため息をついた。
時刻は午後11時58分。
刻一刻と時を刻む長針があと二回回れば今日は終わる。
普段から夜型の生活を送る自分にとってこの時間は大して問題ではないが、今日だけは特別だった。
緊急の連絡が入ったときから予想はしていたけれども、やはり間に合わないか。
沈みかける気持ちを浮上させようと意識してもため息が零れるばかりだ。
腰掛けていたベッドの上に、パタリと体を後ろに倒して横たわる。
『必ず今日中に行くから!』
電話口で告げた言葉が脳裏に甦る。
バカスザク。約束したのに。
今日中に来てくれないじゃないか。

バレンタインデー。
世の女の子たちは好きな人に思いを伝え、カップルは二人で甘い時間を過ごす一日。
ルルーシュとスザクにとってもそれは例外ではなかった。
今日の約束が久しぶりに二人で過ごせる時間となるはずだったのに。
放課後、授業が終わったらそのまま二人でクラブハウスに帰る予定だったというのにいつのまにか姿が見えなくなったスザク。
そしてかかってきた一本の電話。
『ごめん、ルルーシュ。軍から呼び出しがあって』
今日は休みを取ったと言っていたのに、突然入ったという仕事にルルーシュは落胆せざるを得なかった。
それでも必ず行くと、今日中には行くと言ったスザクの言葉を信じて待っていたのに。

未練がましく再び時計に目をやる。
長針は360度を回りきって、すでに二週目に突入していた。
こんなこと気にしてばかみたいじゃないか、俺。
もうスザクはやってこないだろう。
ああ、ほら。あと20秒もない。
諦めてこのまま寝てしまおうと、ベッドから起き上がったときだった。
部屋の外から聞こえてきたあわただしい物音。

「っごめん、ルルーシュ!遅くなった…!」
自動式のドアが開き息を切らせて駆け込んできたのは待ち焦がれていた相手。
もう現れないだろうと思っていたスザクがやってきたことに、ルルーシュは一瞬驚きを隠せなかった。
それでもその驚きはすぐに怒りへと変わる。
「バカスザク!遅い…!!」
「ごめん、予想以上に長引いちゃ…」
「言い訳なんか聞きたくない!」
スザクの言葉を遮るように、手元にあった枕を投げつけて叫ぶ。
ボスッと鈍い音を立てて、スザクに当たった枕。
普段ならいとも簡単に避けられるはずのその攻撃をスザクがあえて避けなかったことがルルーシュの苛立ちをさらに募らせた。

せっかくチョコだって用意したのに。
はっきり言って恋人たちのイベントだなんていわれるものにルルーシュは興味がなかった。
それでもスザクが欲しいと言ったから作ったチョコレート。
ラッピングなんて大したことはできなくてただただラップに包んだだけのそっけないものだったけれど、スザクが喜んでくれるだろうかと期待していた。
バレンタイン当日に渡したかったのに。
気付けば時計の針はとっくに12時を回っている。
バレンタインデーは終わってしまった。

「チョコレート、渡せなかったじゃないか…」
やつあたりしているという自覚はある。
スザクが軍に呼ばれたのは仕方のないことだ。
しかし久しぶりの逢瀬を邪魔されたルルーシュは悔しさに涙が溢れるのをとめられなかった。
「本当にごめん。ああ、ほら。泣かないで、ルルーシュ」
「……泣いてない」
ふてくされるように小さく呟いてみても、流れ落ちる涙は止まらない。
ぐすぐすと拗ねるように泣くその姿が、不謹慎ながらとても可愛いとスザクは思ってしまった。
「ああ、もう、可愛いなあ…」
ポツリと漏れてしまった本音。
その声にルルーシュがピクリと反応する。
聞こえるか聞こえないかという小さな呟きだったが、ルルーシュの耳にはきちんと入ったらしい。
「どういう意味だ」
「え、あのいや、その…」
まずい、非常にまずい。
ルルーシュは可愛いだとか綺麗だと言われるのを嫌う。

「えーと、その、つい…」
「つい、だと?こっちは真面目に話をしているというのに!」
「ご、ごめん!」
「…こんな行事を楽しみにしていたのは俺だけだったんだな!」
ルルーシュは怒りに任せて怒鳴りつける。
「ち、違うよ!僕だってずっと楽しみに…」
「ああそうだよな、俺だけ一人で盛り上がって。さぞ滑稽だっただろうな!」
「ちょっと待ってルルーシュ!話を聞いて…」
「もうこんなものもいらないだろう!」
ベッドから立ち上がって机の上においてあったチョコレートを手に取る。
そしてスザクが止めるのも聞かず、中身を自分の口に運んだ。
まるでスザクへの腹いせだと言わんばかりに。

「あ…」
呆気にとられるスザクに見せ付けるようにルルーシュはべーっと舌を出す。
「スザクのばーか!」
してやったりという満足げな顔でルルーシュが笑うのを呆然と眺めていたスザクは、ふとあることを思いついた。
ルルーシュの舌先にわずかに残るチョコレート。
自分の思いつきに思わずくすりと笑って、スザクはルルーシュへと近づく。
そしてそのままルルーシュの舌を自らのそれで絡めとった。
「んぅっ!?」
スザクが起こした突然の行動に体がついていかないのか、ルルーシュは目を見開く。
君がいけないんだからね。
いくら僕が間に合わなかったからって、用意していたチョコを食べちゃうんだから。
約束を守れなかったことは悪かったけど、これでも頑張って帰ってきたんだよ?
だから、これぐらいの意趣返しは許されるよね?

重ねられた唇はすぐには離されず、内部を動き回る舌の動きにルルーシュはぎゅっと目をつぶる。
すべてを奪いつくそうと蹂躙する激しさに、全身がぞわりと鳥肌立つ。
「ん…っ、ふぅ…ん」
甘ったるいチョコレートの香りが舌先で絡み合う。
しばらくしてようやく唇が離されたときには、ルルーシュはすっかり体の力が抜け、ぐったりとスザクに寄りかかるようになっていた。

「ふふっ。ルルーシュのチョコいただき」
「っはぁ…な、なにするんだっ…!」
「だってルルーシュが僕にチョコくれないだなんて意地悪するから。貰っちゃった」
語尾にハートマークが付きそうな明るい口調で言われて、ルルーシュはがっくりと肩を落とす。
俺はまだ怒っているというのに、何でこいつはこんなに悪びれない態度なんだ。
ルルーシュが動けないのをいいことにスザクはルルーシュの体をベッドへと倒す。
「おいっ…スザク!俺はまだお前を許したわけじゃ…」
「ルルーシュがいけないんだよ。僕を煽った責任取ってよね」
そう楽しそうに告げてルルーシュの上へとのしかかってくるスザクに、ルルーシュは激しい眩暈を覚えた。
「誰が!いつ!煽ったっていうんだ!」
「君が、さっきだよ」
「俺は煽ってなんかいない!」
そんなこと言われてもその格好じゃ説得力ないよ、ルルーシュ。
本人はすごんでいるつもりなのだろうが、スザクに押し倒された体勢ではまったくそんな風には見えない。
むしろ怒りで上気した頬と潤んだ瞳で睨みつけるその姿は、男の劣情を誘うだろう。
極上の獲物を目の前にして、スザクは思わずごくりと唾を飲み込んだ。

「おい、スザク…」
「もう黙って、ルルーシュ」
そっと指でルルーシュの唇をふさぐ。
「スザ…ん、あっ」
前触れもなくいきなり下肢をなぞられて、思わず声が漏れた。
「反応してる…キスだけで感じちゃった?」
「ち、ちがっ」
否定しても久しぶりの行為に反応する体は止められない。
あっという間にズボンごと下着を下ろされて、肌がひんやりとした外気に触れる。
その冷たさと体内の熱とのギャップにクラクラする。
ゆっくりと焦らすように触れてくるスザクの手がもどかしくて仕方なかった。
「あっ…や、ダメ……っ」
スザクはルルーシュの感じるところをわざと外すように愛撫を施していく。
だんだんと溜まっていく熱。
それでも決定的な刺激を与えてもらえない体は、物足りなさを感じてしまう。
気持ちいいのに、やめてほしい。
でもやめてほしくない。
相反する気持ちが押し寄せて、ルルーシュの思考を塗りつぶしていく。
「気持ちいい…?」
「や、ああっ」
耳元で囁かれた低音に思わずびくりと震える。
「も…スザク…っ、だめっ」
体内で暴れまわる熱におかしくなってしまいそうだ。
「我慢できない?」
もう考える余裕も残っていなくて、スザクの言葉に必死で頷く。
「わかったよ」
スザクは緩やかな愛撫を施していたルルーシュ自身から手を離し、後ろの蕾へと触れる。
「え…やあっ、なんで…」
この荒れ狂う熱から解放してくれると思っていたのに、スザクはルルーシュの望みをかなえてはくれない。
「ダメだよ、イくなら一緒に、ね?」
言い聞かせるように囁いて、スザクの指が蕾の周囲をなぞる。
まだ触れてもいないそこはすでに少しだけほころび、強い刺激を待ちわびていた。
ルルーシュの反応の良さにくすりと笑いをこぼして、スザクは内部へと指を埋めていく。
「んっ…んぅ…」
ルルーシュを傷つけないようにと慎重に動くスザクがもどかしくてもどかしくて、ルルーシュは腰を揺らしていた。
「ルルーシュ、腰揺れてるよ」
「スザク…も…い、から…」
「でもまだ慣らしてないし…」
「いいからっ…!はやく、お前をよこせ…っ」
真っ赤に頬を上気させて命令口調で甘く強請るルルーシュにスザクの理性も限界だった。
「っ…君には敵わないなぁ…」
小さく呟いてスザクは自らの前をくつろげる。
そうして現れたスザクの灼熱の証に、ルルーシュは期待で息を呑んだ。
「スザク…っ」
「力、抜いててね」
熱い塊がピタリと蕾へ宛がわれる。
「いくよっ、ルルーシュ…」
スザクがと行き混じりに告げた瞬間。
「んっ…あああああっ!」
その切っ先が一気に肉壁を突き上げて、ルルーシュは強すぎる快感に自らの欲を吐き出した。



「で?俺に何か言うことは?」
「ごめんなさいすいませんでしたルルーシュさん」
結局あの後スザクが満足するまで行為に付き合う羽目になったルルーシュは、翌朝起き上がることさえできなかった。
ベッドの上でシーツに包まり、恨みの言葉をスザクに向ける。
「この体力バカ。ちょっとは手加減しろ」
「う、ごめんなさい…」
自由に起き上がることすらできないルルーシュの姿にさすがに反省したのか、スザクはしゅんと項垂れる。
横たわるルルーシュを上目遣いで覗き込むスザクは飼い主に叱られた犬のようだ。
「まだ怒ってる?」
寂しそうに尋ねてくるスザクにルルーシュははあ、とため息をついた。
「っ…ホワイトデーに同じことやったら許さないからなっ!」
「ルルーシュ…それって」
「うるさい!何か文句があるか!」
「…ううん。ないよ」
恥ずかしいのかすっぽりとシーツの中に隠れてしまった可愛い恋人の姿に、スザクは思わず笑みこぼれた。
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バレンタイン小説なので甘いエロが書きたいと思ったらベタな話に・・・
当初はチョコプレイとかにしようかと思いましたが、最後まで書ききる自信がなかったので断念。
中途半端エロですいません…力尽きました。