「おーい、スザク!」
「ん?何?」

以前なら気にしなかったはずの周囲の喧騒が最近やたらと気になるのはどういうわけだろう。
普段から他人の目など気にしたことのないルルーシュは非常に悩んでいた。
ルルーシュがそんな状況に陥ったのにはわけがある。
話せば長い事ながら、先日ある一人の同級生と初めて話をした。
実際のところ会話というにはあまりにも自分は勘違いの繰り返しで、はっきり言って相手に対して申し訳ないの一言しか出てこないようなやりとりではあったのだが。
それだけなら別に問題はない。
問題は会話の内容ではなく相手にあった。
ルルーシュが先ほどからちらちらと視線を送る先。
友人なのだろう、数人の男子生徒に囲まれながら笑う一人の少年。
先日まで同じ学校、同じクラスの生徒だと気付かなかったのが不思議に思えるほど、彼は目立つ存在だった。
くるくると跳ねた明るいブラウンの髪が、友人達との会話の合間にふわりと揺れる。
枢木スザク。
ルルーシュの頭を悩ませているのは、まさに彼の存在だった。

どうして私が彼を意識しなきゃいけないんだ!
ルルーシュ自身しばらくの間は気付かず、しか気付いた後には非常に納得できなかったことなのだが、あの日以来ルルーシュはことあるごとにスザクを目で追うようになってしまっていた。
楽しそうに談笑する彼が目の端に映るのを自分でも意識して、ルルーシュはつい赤くなる。

落ち着け、私。
ええと、だから、その…。
彼が助けてくれた時の自分の態度があんまりだったから、もしかして怒ってるんじゃないかとかそう言うことを心配してるんだ!
別にこれは好きだからとかそんなんじゃ…!

そこまで考えてルルーシュは自分の思考回路にさらに頭を抱えた。

好き!?
好きってなんだ?
なんで私はそんなことを考えている!?
ち、違う。別にちょっと気になるってだけで私は好きだなんて思ってない!

自分の心の内でひとしきり悶々と悩んでいたルルーシュは、ぐったりと自分の机に突っ伏した。
こんなことで取り乱して馬鹿みたいじゃないか、私。
机に突っ伏したまま頭だけ傾けて、再び彼をちらりと見遣る。

あ…

級友たちの話に反応して、視線の先の彼はふわりと笑う。
それはまるですべてを優しく包み込むような表情で、ルルーシュは一瞬で目を奪われた。

あんな風に笑うんだ。
なんだかちょっと可愛いな。

彼の笑顔に引きずられるようにへにゃりと顔を緩めて、密かに微笑む。
普段であれば見る機会などないであろうとろけた笑顔に、周囲の者達がどよめいた。
いつもは凛と構えて笑顔などほとんど見せず、しつこく絡んでくる男達を一蹴しているルルーシュである。
可愛いというより美しいという形容されることの多いのだが、しかし彼女が今見せた笑顔はとにかく可愛い――しかも殺人的なほどの威力である――と言えるものであった。
あのランペルージが!
いつもつんとすまして女王様然としたあのランペルージが!
畜生!なんであんなに可愛いんだ!
ルルーシュの様子を窺っていた生徒たちは内心で身悶えた。
中には失神寸前という状態の者まで出てくる始末。
しかもその中に男子だけでなく、女子も含まれているところが彼女の人気を物語っている。
しかしながら自分の態度が周囲を混乱の渦に陥れているなどつゆ知らず、ルルーシュは自分の考えに浸っていた。

って!何を考えた!?私!
え、ええええ笑顔が可愛い!??
どうしたらそんなところに考えが行き着くんだ!
落ち着け、私は最近ちょっと疲れてるだけなんだ。

「絶対に、断じて違うんだ…」
「何が違うの?」
「え?」
頭上からかけられた声に体を起こして、ルルーシュは硬直した。

「ほえああああ!?」

な、なななななんで!?
なんでここに彼が!

「ご、ごめん。また驚かせちゃったみたいで」
まさか自分の幻覚かと思ったのだが、どうやらそうではないらしい。
目の前ですまなそうに謝る彼は、間違いなくあの彼だった。
「いきなり声かけたからびっくりしたよね」
「い、いや大丈夫。こっちこそいきなり叫んでごめん…」

何やってるんだ、私。
これじゃ本当の馬鹿だ。
せっかく彼が声をかけてくれたのに、また変な態度ばかりとって。
ルルーシュは申し訳なさで泣きそうだった。

「謝らないで、って言ったじゃないか。ランペルージさん」
「あ…」
ね?と優しく促す声に、ルルーシュは何も言えなくなってしまう。
「…うん」
おずおずとはにかむように笑ったルルーシュは、スザクの次の言葉に盛大に固まった。
「ほら、ランペルージさんは笑ってるほうが可愛いよ」
「っ!」

ど、どうしてそこで赤くなる、私!?
こんな所で照れたりしたらおかしいだろっ!
とりあえず、違う話題を…

「そ、そんなことより!」
「なに?」
「な、名前!ランペルージじゃなくてルルーシュでいい」
「そう?じゃあ僕のこともスザクでいいよ」
「え…あ、うん」
彼は嬉しそうににっこりと笑って言った。
「これからよろしくね、ルルーシュ」
初めて彼に名前を呼ばれてどうしたらいいのかわからずに戸惑うルルーシュを残して、スザクはルルーシュの元を去っていく。
その場から離れたスザクにルルーシュは心底ほっとした。

これから彼とどう面と向かって話したらいいんだろう…。
名前を呼ばれた瞬間、目が合わせられなかった。
ああもう、どうしちゃったんだ、私。

ルルーシュが自分の気持ちの正体に気付くにはまだ時間がかかりそうだった。
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このシリーズのルルは乙女モード全開です。
そしてスザクは天然タラシです。
王道目指して書いてみたものの…挫折した感が否めない。