どうかしていたんだ。
何もかもが、突然すぎた。
自分の主と決めた慈愛の皇女の死も。
守ると誓ったはずの親友の裏切りを知ったのも。
あまりにも突然で、だからもう何もわからなくなってしまった。
悲しみも怒りも苦しみも。
自分が望んでいた世界が、一体どんな姿だったのかも。


そして、誰よりも愛しいと思っていたはずの彼のことも。


自分の体を動かしていたのは、理性でも意志でもない。
抑えきれないほど強烈な激情。


隠された遺跡の中で、鳴り響いた銃声。
人をも殺す武器は二つ、その起爆装置を握る人物も二人。
しかし、鳴り響いた恐怖の音は一つきり。
誰が引き金を引いたのか。
誰がその弾を身に受けたのか。


気付いた時には、その場に立っていたのは自分一人だった。
銃を握り締めていた手はすでに感覚を失って。
目の前に広がる赤い世界。
その中心に倒れるのは、黒き髪に紫の双眸の片方を深紅の血色に染めた、誰よりも愛しい人。
頭がそれを認識した途端、自分自身の起こした行動に気が狂いそうだった。


「ルルーシュ!!」
「…っスザク……」


自分を呼ぶ声は弱々しいもの。
もう体を動かすのさえ億劫とでも言うかのように力の入らない体。
それでも自分を見つめ返す瞳だけはいつもと変わらずに強い光を帯びて。
ああ、死の縁に立ってなお、彼の美しさは全く色褪せないのか。


「ルルーシュ…」
思わず駆け寄って彼を抱きしめる。
「…そんな顔、するな…」
「どうして…」
「ああ、泣くなよ…。…っ…撃った…のは…お前、だろ…」
「…っ!ルルーシュ!!」
渾身の力をこめて、ルルーシュの手が伸ばされる。
その指先は震えながらも、迷うことなくスザクの頬へと辿り着いた。
柔らかい感覚が、肌をすべる。
彼の手はこんなにも温かいのに。
彼を死へと誘う魔の手は、その力を緩めることはない。


「…ここでさよならだ、スザク」
「な…んで…」
呆然と、ただ呟く。
「…っお前が…撃っておいて、よく…っ言う……」
恨みの言葉を口にのせながらも、彼は薄く笑う。
「…ルルーシュ」
(僕を恨んでる?)
「そんな、顔…するな…」
(そんなにひどい顔を、僕はしてる?)
「お前は…最悪の敵で…、っ最高の…友達、だった…」
恨んでなどいない、そう静かに告げる声は、彼が反逆を企てたテロリストなどと思えないほどに優しく。
ああ、ルルーシュだ、なんて。
今更彼のぬくもりを感じても、つらいだけで。


彼の血塗れた繊手が、スザクの頬に赤い一筋の血をつける。
「俺は…お前にだけなら、…殺されてもいいと思っていたよ」
うっとりと目を細めた彼は、そのまま壮麗な紫玉を瞼の裏に隠す。
どこにそんな気力が残っているのかと思うほど、彼の最後の言葉は力強く。
そうして動かなくなった彼は、神々しいほどに美しかった。


すっかり冷たくなった彼の身体を、スザクは強く腕に抱きつづける。
「…ルルーシュ」
(ああ、スザク)
「ルルーシュ、ルルーシュ、ルルーシュ」
(うるさい。そんなに呼ばなくたって聞こえているさ)
「なんで君が…!」
(わかった、わかったから)


「なんで君が、ゼロだったんだ!!」


悲しい慟哭は、いつまでも止まらなかった。



彼は自分の願いも僕の思いも、すべて背負って修羅になった。
それでも彼は優しいから、最後の最後で修羅になりきれなかった。
どうしてこうなってしまったのだろう?
僕が願ったのはただ、彼と歩む優しい世界だったはずなのに。
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