夜明けは嫌いだ。
だって、この光は俺とお前を分かれさせてしまうから。





カーテンの隙間から差し込んでくる朝日の眩しさに僅かばかり顔をしかめて、ルルーシュはベッドから起き上がった。
少し視線を隣に移せば、自分の横にはここ最近でずいぶんと見慣れてしまった、日本人にしては色素の薄い髪。
普段は強い意志を奥に秘めるその翡翠色の瞳は、今は閉じられている。
こうしてみると本当に軍人なのだろうかと疑いたくなるほど、彼の寝顔は静かで穏やかだった。

思えば、彼の寝顔をこうしてゆっくりと眺めるのは初めてかもしれない。
いつもは低血圧で彼と比べるとはるかに体力のない自分よりスザクのほうがずっと早起きで、自分が起きたときにはとっくに身支度を済ませているのが当たり前のことになっていた。

たまには珍しいこともあるものだと、まだ完全に覚醒していない頭でぼんやりと思う。
そうして自分の傍らに残る優しいぬくもりを少しばかり惜しみながらも、ルルーシュはスザクを起こさないよう静かにベッドから抜け出した。
窓際まで歩みを進めて、相変わらず強い光を放つ光に再び顔をしかめる。

俺は、この光が嫌いだ。
皇族としてのルルーシュ・ヴィ・ブリタニアでもなく、作られた存在としてのルルーシュ・ランペルージでもなく、テロリスト総司令としてのゼロとしてでもなく。
ただのルルーシュとして、スザクと接することの出来る二人だけの夜の時間を引き裂く無情な朝日の光。
共に過ごせる小さな幸せを噛み締めながら、それでもこの朝が来てしまうことをいつも恐れていた。

この時間になると、自分の道とスザクの道は分かれてしまう。
自分はブリタニアを破壊する修羅の道へ、スザクはブリタニアに忠誠を誓う騎士の道へ。
そしてその二つの道は、決して途中で重なることも交わることもないのだ。

自分の選んだ道にいくらかの後悔はあれど、引き返すつもりなど到底ない。
そしてまた、スザクもそうなのだろう。
お互いその道を選んでしまったのはどうしようもないことなのだと、そう頭では理解していても自分の心はなかなか納得しようとしない。
普段なら冷静な判断を下すことのできるはずの自分の頭脳が、このことに関してだけは全く正常に機能してくれないことが何よりも腹立たしくて、悔しかった。

だから俺は夜明けが嫌いだ。

スザクと会って共に夜を過ごせば必ず朝が来て離れなければならないということは知りつつ、それでもそれを繰り返してしまう自分の愚かしさ。
いつかこんな穏やかな時間を過ごせなくなる時が来るのだと分かっていても、どうしても離れることができなかった。
自分の進む道のためには切り捨てなければならない存在なのだということも、自分の頭の片隅に追いやって。

何度二人で夜を過ごしただろう。

何度この悲しい朝を迎えただろう。

「我ながら女々しい思考回路だな…」
そうポツリとつぶやいて、唇に自嘲の笑みをのせる。

それでもまだ二人が、ただのルルーシュとスザクでいられる時間が残されているうちは。
またこうして二人きりの夜と朝を重ねても許されるだろうか。

先ほどまで自分が眠っていた寝台へと足を向けて、自分の恋人の顔を見遣る。
「なあ、スザク。もう少しだけ」
いつか近い未来、二人の道が完全に分かたれるその日が来るまでは。





「もう少しだけ側にいても、いいよな?」
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