いつも軍の仕事で忙しいスザクが、アッシュフォード学園に来られたのはずいぶんと久しぶりのこと。
珍しく一日中何の予定も入っていなかったから、普通に朝から学校に行き、放課後には生徒会へ寄って、その後夕食をルルーシュとナナリーと3人で取り、そのままクラブハウスに泊めてもらおうと、スザクはひそかに心の中で予定を立てていた。
それなのに、実際に登校してみたらどうだ。

肝心のルルーシュがいないのである。
鞄はある。
朝早くに見かけたという生徒もいる。
ということは…

「またサボってるのか…」
今日は学校にいるだけましなのだろうか。
軍の仕事であまり来られないスザクは詳しく知らないが、ここ最近のルルーシュは学校にあまり登校していないらしい。
以前も悪友のリヴァルとつるんでは授業中に抜け出して、賭け事に精を出していたと聞いている。
だがリヴァルによるとここ最近、ルルーシュは賭け事をしなくなったという。
その代わりどこか他のところへ出掛けているようなのだが、行き先を知る人はいない。
しかも以前よりも授業をサボる時間が増え、さらには欠席も増えたため、はじめは特に疑問に思っていなかった周囲もだんだんとルルーシュの存在を気にし始めているようだ。

そんな彼が、今日は学校に来ている。
それでも教室のどこにもいないのだから、きっとどこかでサボっているに違いない。
姿が見えないなら、探しに行くしかないか。
これ以上学校をサボりつづけたら、出席日数が足りなくなって困るのはルルーシュだ。
もっともルルーシュはそんなこと気にしないのだろうが、それでも学校をサボるのはよくない。
始業のベルが鳴り響く中、自分も授業をサボることになるのだということをきれいさっぱり忘れ、スザクはルルーシュを探すため教室から駆け出した。





「ルルーシュ!」

あれから校内を走り回って、屋上でようやく目当ての人物が寝転んでいるのを見つけたスザクはそのまま走りよって叫ぶ。
「ルルーシュ!また授業をサボって!早く教室に戻…」
そこでふと気付く。
近寄ってみると彼は珍しくも寝転んだ体勢のまま、眠っていた。

普段は周囲を寄せ付けない雰囲気をもつ美貌が寝ている時にはふわりと緩められて、彼を年齢よりも幼く見せる。
その姿があまりにも気持ちよさそうなものだから、今日こそルルーシュに説教をしてやろうと思っていたスザクの怒りはしぼんでしまった。
そしてルルーシュのすぐ横に腰を下ろしながら、スザクは思わずため息をつく。
こんな無防備な顔で眠っているのを見たら、どんな男だって襲いたくなるに違いない。

この学園で、ルルーシュは男女問わずに人気だ。
それはただ単に彼が美少年だということだけではなく、たとえ庶民となっても消えない洗練された皇族としての雰囲気がそうさせるのかもしれない。
しかし女子に人気なのはわかるが、男子をも惹きつけてしまう彼の美しさには頭を抱えたくなる。
おかげでまわりは敵だらけだ。
ルルーシュを好きなのがまるわかりのシャーリーはもちろん、古くからルルーシュと親交のあったミレイ会長、自分が転入する前は二人でよくつるんでいたというリヴァルあたりもあやしい、とスザクは常々思っていた。

「ルルーシュ、起きて。授業に戻ろう」
そう声をかけて軽く体をゆすってみるも、ルルーシュは全く起きる気配を見せない。
普段は眠りが浅いルルーシュがこんなふうに眠るほど、疲れているなんて。

ルルーシュが秘密主義なのは知っている。
自分に心を許してくれているといっても、ルルーシュは肝心なことはいつも教えてくれない。
きっと彼の幼い頃の経験が、彼に人との関わりを避けるようにさせてしまったのだろう。
それでも周りからしてみれば、心配なのだ。

ねえ、ルルーシュ。
君はなんで最近学校に来ないの?
学校をサボって一体どこへ行っているの?

きっと直接聞いても、「大したことじゃないさ。心配するな。」と返ってくるだけで終わってしまうのがわかっているから聞かないけれど。
それでも、どうしても聞きたいと思っていたこと。
どうして僕にも本当のことを話してくれないの?
周りには教えてくれなくてもいいから、自分にだけは教えて欲しいと思ってしまう。

この感情は本来なら間違っているものだ。
ルルーシュに僕が向ける感情は。
それでも、彼に惹かれて止まない自分の気持ちに蓋をすることはできない。

そんなことを一人悶々と考えていると、傍らで寝ていたルルーシュがわずかばかり身じろぎした。
「……ん…」
「…ルルーシュ、起きて」
「ん………スザ…ク…?」
「そうだよ。おはよう、ルルーシュ」
覚醒したばかりのルルーシュに静かに声をかけると、ルルーシュはようやく人が側にいると認識したのか、ゆっくりと体を起こした。

「…スザク、なんでこんな所にいる?」
「それは僕のセリフだよ。君こそ授業に出ないでこんな所で寝てるなんて。」
「たまにはいいだろう?」
「たまにはって…。最近の君は学校に来なすぎだよ」
「そんなもの、お前だって同じじゃないか」
「僕は軍の仕事があるんだ。でも君は…!」

思わず彼を問いただしてしまいそうになるのを、あわてて自分の中におしとどめる。
駄目だ、それを聞いてはいけない。
いつか必ず聞かなければとは思っていても、それを聞いてしまったら自分達二人の間にある何か大切なものが壊れてしまう、そんな気がした。
それに自分には話してくれるかも、なんて淡い期待を抱くだけ自分が苦しくなる。

突然黙り込んだスザクを訝しげに見つめながら、ルルーシュは再び地面に寝転がった。
「まあいいさ。それより俺はまだ寝るから。起こすなよ」
「ちょっ…、ルルーシュ!」
「お前も寝たらどうだ?軍務で大して眠れていないんだろう?」
「そういう問題じゃなくて!授業…」
「もうすでにサボっているじゃないか」
「そうだけど、でも…」
「いいから」

そう言われて、いきなり腕を引っ張られて、ルルーシュの横に寝転がるはめになってしまう。
本来だったらその程度で体勢を崩すことなどないのだが、彼の行動があまりにいきなりだったので不覚を取ってしまった。
「ルルーシュ、いきなり腕引っ張らないでよ。危ないじゃないか」
「そんなこと言いつつ、ちゃんと受身は取れただろう?」
「そういう問題じゃないよ」
ルルーシュの行動に多少憤慨を覚えたものの、彼の自信たっぷりの表情に思わず笑みが零れる。
そんなスザクを見ていたルルーシュも、堪えきれなくなってくすりと笑う。

こうやって日常の小さなことで笑い合えることがとても幸せで。
たまには彼の言うことを聞いてあげてもいいかな、なんて思ってしまう。
「こんなことは今日だけだからね、ルルーシュ」
「ああ、そうだな」
ああ自分はどこまでもルルーシュに甘いな、なんて思うけれど。
彼の喜ぶ顔が見られるなら、それもかまわないと思う。

「おやすみ、スザク」
「うん。おやすみ、ルルーシュ」
そういって二人並んだ状態で、顔を見合わせて言葉を交わす。
ちょっとでも触れていたいと思ったから、ルルーシュの手を握り締めた。
一瞬びっくりした顔になって、それでもその手を握り返してくれることが嬉しくて、僕は静かに目を閉じた。

「手なんか握ってたら身動き取りづらくて眠れないかもしれないぞ?」
そうは言っても、その手を決して離そうとはしないルルーシュがなんだかおかしくて。
「大丈夫だよ。それにこうして手を繋いで眠ったら同じ夢が見られるかもしれないし」
「夢か…。最近見ていないな」
「それならなおさらだよ」
そう言って彼の手をさらに強く握り締めた。





「おやすみ、お互い良い夢を」
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