注:このお話は「甘い彼女と冷徹な彼(甘い理想と冷たい現実)」の続きです。先にそちらをお読みください。
  相変わらず清雅←秀麗な雰囲気です。ご注意ください。









何故自分は清雅にあんなことを聞こうと思ったのだろうか。
秀麗の頭の中にはその疑問しか湧いてこなかった。
なんて馬鹿なことを聞いたんだろう、と自分でも思う。
清雅の答えなんて聞かなくてもわかっていたはずなのに。
だからこそ、清雅にあのことだけは聞いてはいけないと思っていたのに。
いくら頭で分かっていても、実際に面と向かって言われたら自分が傷つくことは分かっていたのに。
なのに気付いたら自分の口からさらりと質問が飛び出していた。

「もし私があんたを愛してるって言ったらどうする?」

こんな馬鹿な質問に正直に答えてくれるなんて初めから思っていなかった。
どうせ清雅のことだから私のことを馬鹿にするだけでおしまいになるにきまってる。

「お前が俺を?馬鹿か、お前。寝言は寝て言え」

ああ、やっぱり真面目に答えてくれないのね。
私は嘘を言ったわけでも、ふざけているわけでもないのに。

「あんたは愛を信じてないわけ?」
「当たり前だ。そんなもの信じるだけ無駄だろう。俺は愛なんて信じたことは一度もない」

返ってきた答えは自分が予想した通りだった。
彼の口から自分を否定されるような言葉が出てくるのを聞いて
やっぱり聞かなければ良かった、なんて今更後悔してももう遅いのだけれど。
それでも、さらに清雅に問いかけるのを止めることは出来なかった。

「俺にはそんな言葉を信じられる奴の方がわからない」
「“愛してる”なんてのは所詮口だけなんだよ。女なんてちょっと微笑んでこの言葉を言うだけであっさり落ちる。そんな軽い言葉の何を信じろと?」
「愛のある結婚なんてある訳ないだろう。お前、紅家の長姫のくせにそんなことも分からないのか。本当に甘い女だな」

やめて、やめて、やめて。
そんな風に私のことを否定するのはやめて。

「だって父様と母様は恋愛結婚だったもの」
「恋愛結婚?そんなのは嘘だな。結婚なんてのはお互いに利害関係がなければする奴なんていない。お前の両親だって本当に愛し合ってなんか…」

限界、だった。
清雅が言葉を言い終わる前に自分の手はもう清雅の頬を殴っていた。

「っ…!!」
「私のことはいくら馬鹿にしても構わないけど、父様と母様のことを悪く言うのは許さないわ」

私は最低だ。
自分の聞きたくない言葉をさえぎるために父様と母様のことを引き合いに出すなんて。
父様と母様のことを悪く言われることよりも、自分を否定されることのほうが嫌だったなんて。
しかし私の行動は清雅にとっても不覚だったらしい。
彼が動揺した姿を見たのは初めてだった。

「……もう一度言う。愛してるなんてのは上辺だけの言葉だ」
お願いだからやめて。
「“愛してる”と相手に言うのは、自分が執着した相手に対して自分にも同じ思いを抱いてくれるのを期待して言うに過ぎない。単なる自己満足だ」
やめて!!





その言葉で気付いてしまった。
誰よりも相手に“愛してる”を返してもらいたいと思っていたのは自分だったということに。





気付いたときにはもうすでに清雅はその場にいなかった。
話し相手の去った部屋に一人でぽつんと立っていると、自分の馬鹿さ加減に目に溜まった涙がこぼれそうになった。





「“愛してる”と相手に言うのは、自分が執着した相手に対して自分にも同じ思いを抱いてくれるのを期待して言うに過ぎない。単なる自己満足だ」





「なんて悲しい人なの…」
そしてとても真っ直ぐな人。
彼の言葉は真っ直ぐすぎて秀麗の心の中にあるものを暴き出してしまう。
「あんたなんて嫌いよ」
本当に大嫌い。
でも、





――奇遇だな。俺も大嫌いだ。――





違う。本当は。
本当は、私――。





「……。これじゃあ、清雅に馬鹿って言われても仕方ないわね…」
ふとつぶやいた言葉は秀麗以外の誰にも聞かれることなく、消えていった。
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「甘い彼女と冷徹な彼(甘い理想と冷たい現実)」の裏側。
秀麗視点でのお話です。
またしても自分の中で秀麗を乙女化して捏造…。
絶対に秀麗はこんなこと言わないー!
秀麗は、大嫌いだと思ってるうちに気付けば惹かれていて、でもそんなこと悔しいから口には出さない。
清雅は秀麗が気になりつつも、自分の感情を自覚しようとしない。
そんな微妙な距離感を保つ2人の関係が書きたいのですが…。
一体どうやったら上手い文章って書けるんでしょうかね?