注:このお話は清雅×秀麗というより、清雅←秀麗な雰囲気です。嫌な方はブラウザバックでお戻りください。






「もし私があんたを愛してるって言ったらどうする?」





暖かな日差しが降り注ぐ日の午後、本来なら人手不足で休む暇もない御史台。
その中で一番小さな秀麗の仕事場にいつものように居座って、自分の機嫌を損ねつづけていた嫌味な同僚に向かって、この質問を投げかけたのは本当に唐突だった。

尋ねられた張本人は一瞬驚いた顔をしたものの、次の瞬間には憎らしいことにいつもの人を馬鹿にしたような表情に戻り、冷静に答える。
「お前が俺を?馬鹿か、お前。寝言は寝て言え」

「私は真剣に聞いてるのよ」

清雅はどこかこいつの頭でもおかしくなったのではと思い、秀麗の顔をまじまじと見たが彼女の表情は冗談を言っているようには見えない。
それでも信じられず、相手の本意を見抜こうと秀麗の瞳を清雅の鋭い眼光が射抜いたが、彼女が睨み返してきた眼差しは思いのほか強かった。
そのことに少し驚きを覚えたが、その驚きを心の内に隠し清雅は秀麗の質問を鼻で笑った。

「真剣ならなおさら馬鹿だな」

「どうしてよ?私が誰かを愛そうが私の自由でしょう。たとえその相手が清雅でも。あんたに馬鹿だなんていわれる理由はないわ」
秀麗は清雅が自分の質問に真面目に答えてくれないので、ムキになって清雅に言い返す。

「だから馬鹿だって言ってるんだ。“愛”なんて言葉を使うこと自体がな」
「何よ、それ」
清雅は声を荒げた秀麗を見ながら鬱陶しそうに口を開く。
「大体、“愛してる”なんて言葉は偽善だ。そんな言葉大真面目に言う奴がどこにいる。ああ、お前か」
「あんたは愛を信じてないわけ?」

「当たり前だ。そんなもの信じるだけ無駄だろう。俺は愛なんて信じたことは一度もない」

返ってきた答えは案の定、秀麗が予想していた通りだった。
清雅はまるで秀麗の言うことなど馬鹿馬鹿しいと言わんばかりだ。

「どうしてそう言いきれるって言うのよ」
「俺にはそんな言葉を信じられる奴の方がわからない。“愛してる”なんてのは所詮口だけなんだよ。女なんてちょっと微笑んでこの言葉を言うだけであっさり落ちる。そんな軽い言葉の何を信じろと?」
「そういう人も確かにいるけど……でもそうじゃない人もたくさんいるわ。結婚だって…」

清雅は秀麗の言葉に馬鹿らしさを通り越して呆れた。
こいつ、紅家のくせにそんな結婚があると本気で信じているのか?

「愛のある結婚なんてある訳ないだろう。お前、紅家の長姫のくせにそんなことも分からないのか。本当に甘い女だな」
「だって父様と母様は恋愛結婚だったもの」
「恋愛結婚?そんなのは嘘だな。結婚なんてのはお互いに利害関係がなければする奴なんていない。お前の両親だって本当に愛し合ってなんか…」





バシッ





気付いたときには秀麗は清雅の頬を平手で叩いていた。
「っ…!!」
清雅は驚きに目を見張る。
秀麗は自分の感情が爆発しそうになるのを必死で堪えながら殴った手の平がジンジンと痛むのを感じていた。

「私のことはいくら馬鹿にしても構わないけど、父様と母様のことを悪く言うのは許さないわ」
秀麗の目には涙がたまり、瞳は怒りに燃えていた。

清雅は殴られたショックにしばらく動けずにいたが、視線が秀麗のそれとぶつかるとふっと顔をそらした。
「……もう一度言う。愛してるなんてのは上辺だけの言葉だ。“愛してる”と相手に言うのは、自分が執着した相手に対して自分にも同じ思いを抱いてくれるのを期待して言うに過ぎない。単なる自己満足だ」

秀麗がその言葉に動揺したような気配を感じたが、清雅は顔をそむけたまま続ける。
「そんな言葉のどこが“愛”だと?笑わせるな。相手に自分の感情を押し付ける。こんなに醜い感情はない。」

その言葉を残して清雅はもう十分だとばかりに部屋を立ち去った。
その言葉に秀麗はしばらくの間、動けなかった。
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お互いの恋愛観について。
秀麗ちゃんは多分こんなこと言わないと思いますが、そこは脳内妄想でカバーしてください。
あんまり話がお題に沿えてないし…。
実はこれ、自分の中では続きがあったりします。
続きって言うより、秀麗視点でのつけたしみたいな話なんですが。
そのうち書こうかなぁ。