その時だった。いきなりガアン!とものすごい音を立てて、教室の扉が開いた。
皆の視線がそちらへ集まる。
こんなことをするのは学園には一人しかいない―――スザクだった。
いつもなら、スザクはこんな早い時間に教室に来ない。
それに驚くクラスメイトと担任だったが、ルルーシュはそれどころではなかった。
(…どうしよう。あれ…絶対に怒ってる)
顔なんか見なくてもわかる。まとう空気が完全に怒っているときのそれだ。
ルルーシュは入ってくる彼を直視できずに俯いた。
あれだけの噂が広まった後だ。十中八九、何らかの話がスザクの耳にも届いているのだろう。そう思うと、怖くて仕方ない。
できるなら気づかないでほしいと、ルルーシュは机の下で手をぎゅっと握り締めた。ルルーシュの前を素通りして、自分の席に座ってくれればいいと。
しかし期待を裏切り、スザクは教室に入ってくるなりルルーシュのところまでやってきて、目の前に立った。
「おい」
地を這うような不機嫌な声が耳朶を打つ。
振り向かずとも相手がどんな顔をしているのかわかり、ルルーシュは動きを止めた。
「おいルルーシュ」
名前を呼ばれて、ああもうだめだと思った。
この様子では、無視を貫いても誤魔化されてはくれなさそうだ。
ルルーシュは観念して顔を上げた。
「……スザク」
恐る恐る見上げた先にある顔は、思ったほどひどくはなかった。
怒っているというより、むしろ無表情。ただ、じっと見つめる瞳だけが、底冷えしたように鋭い。
しかしこの男はそうやって冷静に見えるときほど、その実、内心では激しく怒っているのだということを、ルルーシュは知っている。
「どういうことだよ、お前」
何が、とは聞かなくてもわかる。
しかし、どう答えていいのか迷って、一度開いた口をまた閉じた。
「…………」
「俺がなんで怒ってるかはわかってるんだろ」
ジノのことを、話さなければ思った。
別に私は、悪いことをしているわけではないのだから、正直に言えばいいのだ。
けれど教室で話すというのが、ルルーシュは耐えられなかった。
こんな好奇の目にさらされた状態ではなく、二人だけで真面目に話がしたい。
だからルルーシュは、こう言った。
「今じゃなくて…後じゃだめか?」
「答える気はない、って?」
「ち、ちが…っ」
「違わないだろ」
ギラリとスザクの目が光る。
その視線がいたたまれなくて、思わず目を逸らすと、スザクは不機嫌さもあらわに唸った。
「もういい」
そう言って、スザクはルルーシュの腕を引いた。




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