「もしかして、あなたがルルーシュ先輩?」
ルルーシュの目の前で立ち止まった彼にいきなり名前を尋ねられて、一瞬ルルーシュは面食らった。
まるで、こちらを知っているような口ぶりだが、当然ルルーシュには相手の顔に見覚えなどない。
「…人に名前を尋ねる前に、まず自分から名乗ったらどうだ」
ルルーシュは遠慮なしに相手を睨みつけた。
別にこの男に恨みはないが、いきなり名乗りもしないで年下に名前を呼ばれるのはいささか不愉快だ。
もっともルルーシュがそう感じた理由は、彼の一目見てわかるほど派手な様子に嫌悪感を覚えたことが一番の理由だったかもしれないが。
しかしルルーシュの険しい口調にも、相手は怯まなかった。
それどころか突然その相好を崩し、いきなり笑い出した。
「はっはっは! 聞いていた通りの人だ!」
「……どういう意味だ?」
「いや、すまない。別に貴方を怒らせたいわけじゃなかったんだけど」
金髪頭の派手な男は一通り豪快に笑ったあと、真面目な顔に戻ってルルーシュに向き直る。
しかしルルーシュは、その言動にも眉を顰めただけだ。
おそらく本人は誉め言葉のつもりなのだろうが、初対面でそんなことを言われて、嬉しがれというほうが無理な話である。
ただ、目の前の男はルルーシュが不愉快に顔を歪めるのに気付いているのかいないのか、自分のペースを崩さない。
自信たっぷりに微笑んで、彼は手を差し出してきた。
「紹介が遅れたな。私の名前はジノ。ジノ・ヴァインベルグ。君の父上に言われてこの学園に来た、君の婚約者だ」

「………………は?」

ルルーシュはもちろん、その場にいた誰もが目を点にした。
「どんな人かと思ってたけど、私の想像通りの綺麗な人で良かった。これからよろしく、ルルーシュ先輩」
よろしく、と差し出された手を、途方にくれた目で見つめる。
今、何かとてつもない言葉を聞いた気がする。
いや、気のせいではなく聞いた。
けれど理解が追いつかない。
「……ちょっといいか」
「うん?」
「今、なんて言った?」
あまり聞きたくないと思いつつも、尋ね返さずにはいられなかった。
聞き間違いであってくれれば、とひそかに願う。
というか、聞き間違えであってくれないと困る!
「想像通りの綺麗な人で良かった。これからよろしく」
「その前!」
「私の名前はジノ・ヴァインベルグ…」
「その後!!」
「君の父上に言われてこの学園に来た、君の婚約者」

婚約者。コンヤクシャ。こんやくしゃ。…………婚約者?

「はあああっ!?」

素っ頓狂なルルーシュの悲鳴が廊下に響き渡った。




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