「…スザク? どうかしたか?」
「いや…」
口ではそう答えつつ、スザクはあたりの気配を注意深く伺った。
視線を走らせても、家の周りを囲む森の木々は一見普段と変わりない。
しかし周囲に張りつめた緊張感だけが、いつもと違う。
何かが、いや、誰かがこちらの様子を見張っている。
確信はない。直感だ。だがこういうときのスザクの勘は外れたことがなかった。
「…スザク?」
「しっ、静かに」
ルルーシュを背後に庇い、スザクは目の前の木々を見つめた。
冬の冷たい朝の風がすっかり葉の落ちた木々の合間を吹き抜けていく。
刹那、殊更強い風が二人を襲った。
「―――――っ!!」
その強風の勢いに合わせるようにして、周囲に満ちていた鋭い気配が切り裂かれる。
常人よりも良すぎるスザクの視力は、木々の間から二人めがけて猛スピードで飛んでくる物体を認めていた。
シュッと風を切る独特の音。
それは耳のすぐ側を通過し、スザクのふわふわした髪の毛にわずかにかすって、カツッと軽快な音を立てて家の壁に突き刺さる。
と同時に森の奥で黒い人影が動いた。
「待てっ! …おいっ!!」
スザクはその影を追うべく駆け出そうとした。
しかしその動きを、服の裾を掴んだルルーシュが止める。
「ちょ、ちょっと待てスザク! 相手が誰かもわからないのに、いきなり突っ込んで行くな!」
強い制止の声に、スザクは我に返った。
確かにルルーシュの言う通りだ。
自分たちを狙ってきたのが誰かもわからずに動くなんて、危なすぎる。
「ごめん、ちょっと焦ってたみたいだ…」
こういう誰かに狙われるという感覚が久しぶりだったせいで、冷静に対処できなかった。
今更気付いても遅いが、さすがの自分でも半年間のブランクは大きかったらしい。
「怪我はしてないよね?」
「ああ、大丈夫だ。それよりスザク、これ…」
ドアのすぐ横、家の外壁に突き刺さった物体。
それをルルーシュ恐る恐る抜き取る。
ルルーシュの手の中にあったのは、一枚のカード。それもただのカードではない。

『今宵、貴方の姫を頂きに参ります。

                   怪盗ランスロット』

流れるような美しい字体で書かれていたその文字に、二人はそろって目を見張った。




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