「ルルーシュ、もうこの生活には慣れた?」
「ああ。村の人たちも優しいし、いいところだな」
小さな村ではすべての住人が顔見知りだ。
初めこそ新参者として胡散臭い目で見られていたスザクたちだったが、今ではすっかり村人たちと仲良くなった。
どうやら村人たちには、自分たちは若い新婚夫婦に見えるらしい。
そのことでスザクは毎日のようにからかわれていたが、真実を話すわけにもいかないし、実際のところ新婚のようなものなのであえて訂正はしていなかったりする。
この村はペンドラゴンからはそう遠くないものの、国境近くの森の中に忘れ去られたようにある集落だけあって、中々街の情報が届かない。
まあたとえ届いたところで皇女が宮殿から失踪したなどという噂はブリタニア皇室が絶対漏らさないだろうが、用心するに越したことはなかった。
ルルーシュの正体を隠しておけるなら、子供だましのようなごまかしでも必要だろうと、スザクはそう思っている。
「良かった。君にとっては慣れない環境だし、もし僕のせいで君につらいことがあったりしたらどうしようかと思ったよ」
「確かに戸惑うことは多いが…そもそも私が望んでお前にくっついてきたんだぞ? お前が気に病むことじゃない」
「ルルーシュ…」
ルルーシュにとっては何気ない言葉なのだろうが、スザクにとっては違う。
自分の意思でここにきた、とそう言外に告げるルルーシュに、スザクはもう一度その体を抱きしめたい衝動を押しとどめた。
だめだ。ここで今抱きしめてしまったら、多分自分は止まれない。
そう思うのに、気付けば自分の手は自然とルルーシュへ伸びていた。
しかし、さらりと流れる髪に指先が触れた瞬間、ルルーシュの体がびくりと大きく震え、そこでようやくスザクは我に返った。
「あ…」
ルルーシュはすぐさましまった、という顔をしたが、その反応が彼女の心の内をすべて表していた。
驚かせたいわけでも、ましてや怖がらせたいわけでもない。
むしろ優しく、誰よりも大切にしたいと思うのに。 傍にいるだけで簡単に崩れそうになる自分の弱さが悔しい。
「ごめん」
伸ばした手を引っ込め、スザクは背を向けて謝った。
ルルーシュが怯えている様子を直視するのが怖くて、顔は見ることができない。
「…いや、私のほうこそ悪かった」
謝らせたいわけじゃない。できることならずっと笑っていてほしい。
なのにそんな悲しい声をさせてしまう自分のふがいなさに腹が立って、スザクは唇を噛み締めた。




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