「……今回だけだからな」
「やった! もしパーティーについて来てくれないって言われたらどうしようかと思ったよ」
にっこりと邪気のない顔で笑うスザク。
その顔があまりにも嬉そうなものだから不覚にも一瞬ときめいてしまって、ルルーシュは自分の中に生まれたその動揺を誤魔化そうと必死に先の言葉を紡いだ。
「そ、それで具体的に俺はどうすればいいんだ?」
「あ、それなんだけど、君はこの衣装を着てくれるだけでいいよ」
どこに隠していたのかと思うほど素早い動きではい、と手渡された布の塊。
しかしそれを受け取った瞬間、ルルーシュの動きは止まった。
「……………スザク」
「なに?」
「これはなんだ?」
「なんだって言われても…衣装だよ?」
「そんなのは見ればわかる! そうじゃなくて、なんでドレスなのかって聞いてるんだ!」
そう、スザクに手渡されたそれはどこからどう見ても女物の真っ黒なドレス。
おまけにフリルやらレースやらがやたらと多いひらひらしたデザインとくれば、これはもう男の着る服装じゃない。
「お前の作戦ってこれか? 俺に女装しろと?」
「だって少しくらいは変装しないとルルーシュだってばれちゃうじゃないか」
「だからって女装しなくたっていいだろうが!」
というよりまず、なんでそこまでして無理やりルルーシュをそのパーティーに引っ張り出したいのかということが問題なのだが、今のルルーシュにそんなことを考える余裕はない。
一向に噛み合う気配を見せない会話に苛立って声を荒げても、当のスザクはひどく楽しそうな顔で笑うだけだ。
「わかってないね、ルルーシュ。民衆にはルルーシュ皇帝が男だって先入観がある。だからそこに君がドレスを着て行けば、誰も君の正体には気付かない」
「そんな簡単にいくわけがないだろう。女装しようが顔は変わらないんだ」
「じゃあ男の格好なら上手くいくの?」
「それは…っ」
確かに女装だろうが男装だろうが、顔が見えていれば変装の意味などない。しかし、そういう意味で言うのなら、男装したって女装したって結果は同じではないのか。
「なら逆に聞くが、女装したら上手くいくのか?」
「うん、勿論」
「……………」
大いに真面目な顔で頷くスザクに、ルルーシュはこのままこいつにゼロを任せてはたして世界は本当に大丈夫だろうか、と激しく不安に駆られた。




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