「それにしてもスザクの奴、しんっっじられないっ!!」
握りこぶしで机を思いっきり叩きつける。はっきりいって手が痛かったが、それでも怒りの感情が収まりそうな気配は一向になかった。
「まあまあ、そんなにイライラしないの。ストレスはお肌に悪いわよ」
「誰のせいですか! 誰の!」
そもそもルルーシュを苛立たせている大元の原因はこの人だ。アッシュフォード学園理事長の孫にして生徒会長、ミレイ・アッシュフォード。
スザクとはまた違うタイプの天上天下唯我独尊を地でいく人であり、ルルーシュと並ぶ学園の女王様。
好きなものはお祭り。嫌いなものは退屈。
彼女の手にかかれば普段の日常はたちまち面倒事だらけの毎日に変わると言って差し支えないほど、とにかく物事をひっかきまわすのが大好きな人だ。
おかげでルルーシュをはじめとした生徒会役員が地獄を見た回数は数え切れない。
正直なところそれらは思い出したくもない。
それだけ精神的なダメージをこの人のせいで食らっている。
しかもミレイの場合悪気がないから尚タチが悪いのだ。
そんな麗しき生徒会長様が今回(というか基本的にいつもそうなのだけれど)目をつけたのは、不幸なことにルルーシュだった。
「そもそも会長があんな記事さえ書かなければ、私がこんなに怒る必要もなかったんです!」
「記事を書いたのは私じゃなくて新聞部よ」
「でもネタを売ったのはあなたでしょう!」
たとえミレイがそのつもりでなかったとしても、面白い情報が持ち込まれたのなら新聞部の連中が黙っているはずがない。前回の記事も結局のところは会長の仕業だった。
「だって気になるじゃなぁい? あれだけ嫌い嫌いって言ってたくせに、気付いたらスザク君と付き合ってるんだもの。何があったの!?って皆が知りたくなるのも当然でしょう?」
「そんなこと知りません! 私がどう行動しようが私の勝手です!」
「ちょっとそれ本気で言ってるの、ルルーシュ?」
半ば投げやりで放った言葉に、ミレイは呆れ顔になった。
「まったく鈍いんだから。自分がどれだけ人気があるか自覚してないってのも困りものよね」
「それを言うなら私じゃなくてスザクのほうでしょう」
ルルーシュとしてはまったく理解しがたいことなのだが、どうやらこの学園で一番モテる男子はスザクらしい。
確かに顔良し、家柄良し、おまけにお金持ちであることは認めるが、あんな校則違反ばっかりの不良のどこが良いんだか―――そう思っていた(今でも少し思っている)自分がスザクの彼女になるとはなんとも皮肉なものだ。
「あれ、もしかしてスザク君がモテるからってヤキモチ?」
「違います」
すっぱりと切って捨てたが、ミレイはニヤニヤ笑うだけだった。
「まあそう照れないの。大丈夫よ、黙ってるから」
「会長っ!!」
ルルーシュが声を荒げようとミレイはどこ吹く風のようで、逆に面白いものを見つけたとばかりにぐぐっと迫ってきた。
「ね、それで結局どうなの?」
「どうなのって…どういう意味ですか?」
「決まってるじゃない! スザク君とのことよ。あれから何か進展とかあった?」
興味津々の様子で迫ってくるミレイの視線から逃れるように、ルルーシュはすっと目を逸らした。
「…何もないですよ」
「何もって…あれから何にもないって言うの?」
「ええ」
信じられない、と呟くミレイはまるでこの世の終わりというような顔をしていた。




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