「うん、もう深夜過ぎてるし、きっと起きてないよね…」
希望的観測を一言漏らし、腹を括って深呼吸。
ゆっくり吐き出す息がすっかり白くて、ああやっぱり寒いから中に入りたいなあなんて、こんな時だけ現金な自分が恨めしい。
かなり億劫な仕草で重たい鞄の底からなんとか鍵を引っ張り出して、そっとドアノブに差し込む。
手の中の鍵を静かに回せば、この一時間はなんだったんだろうと思うほどあっけなく、カチャッと小さな音を立ててドアが開いた。
どうか今の音に気付いていませんように、とおそるおそるドアを開け、そうっと中を窺った次の瞬間、スザクは目にも留まらぬ速さですぐさまドアを閉めた。
だが相手もとっくにスザクの行動を予測していたらしい。
スザクが顔を引っ込めるよりも素早く閂が差し込まれ、勢いよくドアを閉めようとしたスザクの馬鹿力によってドアがギシギシと嫌な音を立てた。
「……………」
ドアをはさんでお互い沈黙が続くこと十数秒。
(ど、どうしよう…………)
こっそり帰った部屋で相手と遭遇するという、この可能性を考えなかったわけではない。
しかしいくらなんでもこんな玄関先で待ち構えてるなんて思ってもみなかった。
それだけ相手の怒りがすさまじいということなのだろうけども。
スザクがほとんど硬直したまま何も言えないでいると、ドアの向こうから普段とは比べ物にならないほどドスのきいた低い声が響いてきた。
「すぅぅぅざぁぁぁぁくぅぅぅ…」
今まで聞いたこともないほど怒りのボルテージ最高潮なその様子に、スザクは思わずひくりと顔を引きつらせた。
「……ル、ルーシュ…」
「…ドアを開けっ放しにしてないでさっさと中に入れ。寒い」
あたたかく出迎えてくれているわけでは決してない。
冷静そうに見せているが、この声は絶対に怒っている。
嫌だ、ものすごく中に入りたくない。
ルルーシュの説教を食らうくらいなら氷点下の室外にいたほうがましだと思ったが、そんな後悔はしても遅い。
覚悟を決めて半開きになっていたドアをぐいと開ける。
次の瞬間目に飛び込んできたのは、この二ヶ月半以上会えなかった、愛しい恋人の姿。
「おかえり、スザク」
空気も凍りつく絶対零度の微笑みでのお出迎えに、スザクはもう一度ひっと顔を引きつらせた。




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