「へぇ、俺が嘘つきだって言うんだ?」
さっきまでのおとなしさはどこへやら、突然嘲るような口調に変わったスザクにぎくりとルルーシュが顔を強張らせる。
だがルルーシュが反射で身体を引く前に片手を掴んで退路を絶った。
「だ、だって人の話を聞いてないじゃないか」
「ちゃんと聞いてるさ」
そのままぐっと顔を近づければルルーシュの瞳が戸惑いに揺れる。
紫の宝石が揺らめくのが妙に綺麗だと思いながら、スザクはさらに顔を近づけた。
「…っ…」
ルルーシュが息を呑む気配が、唇に触れる吐息で伝わる。
間近で交わされる視線に耐えられなくなったルルーシュがふいと目を逸らす。
スザクはそれを頭に手を回して固定することで遮った。再び交わる眼差し。
「スザク…はなせ…っ」
「嫌だね。人のこと勝手に嘘つき呼ばわりしてくれたお返しだ」
そう言ってスザクはルルーシュの形の良い顎をついとすくった。
上向かされる動作にとうとう観念したのか、ルルーシュがぎゅっと目を閉じる。
だんだんと縮まる二人の距離。
距離をつめるスザクの唇が、今にも触れあいそうなほど近づいて、そして―――…
ゴツン!
「痛ったぁ!」
鈍い音と共にルルーシュを襲ったのは、強烈な痛みだった。
じんじんと痛む額を押さえて目を開けば、すぐ目の前に勝ち誇ったようなスザクの笑み。
騙されたと認識するまでにそう時間はかからない。
「ス、スザクお前っ!」
「引っかかるそっちが悪い」
真っ赤になって言い返しても、スザクには何の効果もない。
にやりと笑うその顔が憎らしいと心の底から思う。
そこへスザクのさらなる嫌味が降ってかかった。
「あ、それとも本当にしたほうが良かったか?」
「そっ、そんなわけないだろ馬鹿!」
ちょっとからかってやるだけですでに赤かった頬をさらに真っ赤にして、ルルーシュが必死で言い返す。
その姿ですら可愛くて、気付けばスザクは笑っていた。
今はこれで良い。友達でも恋人でもない、好敵手というこの関係が心地良いから、もう少しの間はこのままでいい。
すぐに自分のものにしてしまうなんて、そんなの張り合いがなくてつまらない。
あと少しは、自分のものにならないこいつを眺めているほうが楽しいだろう。
「まあいいさ。ほらそんなことよりとっとと行くぞ。ここが駄目ならまた聞き込みするんだろ」
「あっこら待てっ!逃げるなよ!さっきの話は終わってないんだからな!」
向けられる罵倒ですら甘く聞こえる自分も相当だなと思いながら、スザクはゆっくりと歩き出した。




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