「君に選択肢をあげよう、枢木君」
「選択肢、ですか…」
この場の支配者は間違いなくシュナイゼルだった。
飲み込まれまいと必死になるスザクを嘲笑うように、シュナイゼルは余裕の笑みを崩さない。
「そうだ。君が私の条件を一つ飲むというのなら、私から国王陛下に結婚のことを取り下げてもらえるよう頼んでみよう」
シュナイゼルの提案の意図がスザクにはわからなかった。
優しげな風貌に見えて彼は侵略国家ブリタニアの宰相を務める男だ。
ある意味では国王をも超えるほどブリタニアらしい彼が、自分に理のないことをするとは思えない。
「それで陛下の考えが変わると殿下はお思いなのですか」
不敬にあたると言われてもおかしくない発言だった。
だがスザクは怯みはしなかった。
常緑の瞳でシュナイゼルを真っ直ぐ見つめて、視線を動かさない。
そんなスザクをシュナイゼルは咎めなかった。
それどころか自分も陛下に対する率直な意見を彼は口にした。
「いや、思わないね。陛下の考えがその程度で変わるくらいならば、とっくにルルーシュ自身が説得できただろう」
「では、何故そんな提案を?」
スザクの言葉にシュナイゼルは一瞬口を噤んだ。
答えるのを躊躇うように一度ゆっくりと目を閉じ、再度目を開ける。
「私はね、この結婚自体を厭う気持ちはないんだ」
シュナイゼルは殊更ゆっくりと、言い聞かせるように話す。
「彼女の夫となれば王族として私の地位も確立する。国王への道も近いものとなる。私にとってこの結婚は有利な点しかない。だからあえて自分から陛下を説得しようとは思わない」
だが、とシュナイゼルは言葉を続けた。
「ルルーシュは違うだろう?私はルルーシュに嫌われるつもりはないからね。ルルーシュのためには、誠意を見せないと」
ルルーシュのことを話すシュナイゼルの口調はどこまでも優しく、瞳には真剣な色が滲んでいた。
「シュナイゼル殿下は、ルルーシュ殿下のことを…」
スザクは思わず反射的に尋ねてしまった。
だがシュナイゼルはその様子にふっと笑う。
「ルルーシュは誰よりも大切な子だよ。だから彼女の嫌がることはできるならばしたくない」
話を聞く限りでは、シュナイゼルがルルーシュに向ける感情は家族ではなく一人の男として見せる愛のようだとすぐに気付いた。
だからこそ、彼のルルーシュへの思いは、確かに本物だとわかる。
ルルーシュを悲しませたくないと願う、その思いは。
「…あなたの条件とは?」
決意したように尋ねたスザクを満足そうに見遣って、シュナイゼルは口を開いた。
「君がルルーシュの騎士を辞退し、完全にルルーシュから手を引くことだ」
優しい笑みを貼り付けた征服者の顔で顔色一つ変えずに言い切ったシュナイゼルに、スザクは大きく目を見開いた。



Close