王族は責任を負わねばならない。
王族は大きな権力と贅沢な暮らしを得る代わりに、民を守り、国を治め、統治するという重責を担う。
王族である以上、一定の年齢に達したならば国のために何かしらの責務を果たすのは当然のこと。
たとえ女であろうと、国王の寵愛が篤かろうと、それは変わらない。
ルルーシュも例外ではなく、父王の住まう太陽宮のすぐ側に併設されている行政府の一角に自分の執務室をもち、父王の内政の手助けをしていた。

「昨日一日空けただけでこれか…」
「これは…すごいですね」
一日ぶりに足を踏み入れた自分の執務室。
スザクを従えてその扉を開いたルルーシュは、机の上にうずたかく積み重ねられた書類の山が目に入るや否や、今すぐ踵を返して自分の宮に帰りたくなった衝動を必死で堪えた。
一昨日、ルルーシュがこの部屋を出たときには、机の上から一切の仕事は消えていたはずだ。それはナナリーと過ごせる休日を獲得するためにルルーシュが努力した結果でもあった。
それが今日になってみればこの書類の山。
しかも以前より量が増えている気がするのは、どうみても自分の気のせいではない。
もともとルルーシュが有能であると知る者たちは以前からこの執務室に大量の書類を持ち込んではいたが、たった一日でここまで溜まるのは初めてだ。というより、これは…
「半分以上が殿下ご本人宛への私的な嘆願書ですね」
積んであった紙の一枚をぴらりと手にとって内容を確認したスザクが顔色を変えずに言い切る。
その答えだけで、ルルーシュはこれらの嘆願書とやらの内容を完全に悟った。
「またか…。一体何度言えばわかるんだ、あの馬鹿貴族どもが」
ここに積まれた書類のどれもこれもが、どうか自分をあなたの騎士に取立てください、だとか、どうか自分をあなたの婚約者に選んでください、だとか、どうか我が家の夜会へお越しください、だとかどうでもいい内容を、美辞麗句を飾り立てて並べたものに違いない。
「殿下ももう17歳ですから。成人の儀も間近に迫っていますし、貴族の方々が必死になるのもわかりますが…」
「はっきりいって迷惑なだけだ。私には結婚する気もお前以外の騎士を持つ気もない」
行儀悪くどかっと上等な椅子に腰掛けて書類の山に手をつける。
最初に手にとった一枚に視線を向けてきっかり一秒後、再び顔を顰めてすぐさまそれを机の横に置かれた専用のかごへ投げ入れた。
「仕事以外はここに突っ込んで、厨房にでも持っていって全部焚きつけて燃やしてしまえ」
「構いませんが、また料理長が嘆くでしょうね。この前持っていった分が燃やし終わらないと、先日ぼやいているのを聞きました」
「なら侍女達の詰め所にでも…」
「侍女長も嘆いていました。もう年頃だというのに姫様は一向にご自分の結婚に興味を示してくださらないと」
「ああもうわかった!」
あくまで淡々と言葉を続けるスザクに嫌気が差して、半ばなげやりな気持ちでそれを遮った。
こういう時のスザクは絶対に自分を譲らない。ならば大人しく従ったほうが身のために決まっている。
「読んでから捨てればいいんだろう」
「はい、助かります」
にっこりと満足そうに笑うスザクに、ルルーシュはげんなりした。
「まったく、お前の小言は聞き飽きたんだ」
「これも殿下のためですから」
恨みがましい目で自分の騎士を睨むも、睨まれた相手は一向に気にしない風でさらりと告げる。
そしてそのままスザクは自分の仕事だけを抱えて、執務室から続く奥の書庫へと入っていってしまった。



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