「一つ、チェスでもいかがですか?」
ゼロからの突然の申し出。
何故彼がチェスという手段を選んだのかはおいておくにして、なかなかに面白い提案だと思った。
チェス。それはまさに国取りの縮図。
王がいて、女王がいて、騎士がいて、歩兵がいて。自分が王となって自らの手駒を使い、相手に攻め入り、敵の王を落とす。
つまりは対戦の中で、互いの国を背負って戦い、そしてあわよくばこちらを飲み込んでやるということ。
面白い。
彼はどこまでも本気だ。
彼とて私の頭脳を知らぬわけではないだろうに、あえて頭脳戦を挑んでくるあたりがこの男らしい。
この男はブリタニア帝国の宰相たる私にチェスなどという遊びのゲームで勝利して、そこから自分の望むものを引き出そうとしている。
彼が直接的に要求してきたのは枢木スザクの身柄だったが、それが本当に欲しいというわけでもないだろう。
真に欲しているのは私の命か、情報か、それとも日本に手は出さぬとの約定か。
いずれにせよ、ここまでお膳立てされて、引き下がるというのもプライドが許さない。
だから彼の誘いに乗ったのは、反射的だった。
「では私が勝ったら、その仮面を脱いでもらおうか」
こうして、二人の勝負は始まった。



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