“ルルーシュを守るため”

なんで今更そんなことを言う?
なんでそんなに残酷な言葉を告げられる?
過去に俺を愛していると告げたその唇で。
あの時俺を裏切ったお前が。

ああ、お前は裏切ったのは俺だと思っていたからなのか。
どうしてお前はいつも独り善がりなんだろうな。
お前は他人を優先しているようでいて、本質を何も見ようとはしない。
俺がゼロとなった理由も、ゼロでありつづけた理由も、俺の思いも何もかも。
ゼロとなったことに後悔はない。それをスザクのせいにするつもりもない。
それは俺の罪だ。スザクに押し付けてはいけない。
ルールを曲げるのが大嫌いなお前にとって、ゼロの行為は許せないものなのだと知っていた。
お前に俺の理想を理解してもらうのが難しいともわかっていた。
それでも、俺はお前と共に歩みたかった。

“守りたかった”

守りたかった?
そんなこと言われてもちっとも嬉しくなんかない。
守って欲しいなど俺は一度も言ったことはないのに。
俺はただ、お前に隣にいて欲しかっただけだ。
自分の思いだけを押し付けて一方的に守られるのなら、それは対等な関係じゃない。
ただ側にいて、一緒に過ごせればそれでよかった。

本当はわかっている。
俺とお前の道は決して交わるものではなかったということぐらい。
お前は結果ではなく方法を、俺は方法ではなく結果を求めた。
それぞれのやり方では何も変えられないと信じて、それぞれの道を進んで。
それでも、お互いの嘘を脱ぎ捨てて穏やかに暮らせるあの時間は、学園での静かな暮らしだけは、お前と共にいられる時間だと信じていたのに。
お前の主は、お前は、俺から最後の砦までも奪った。

行政特区日本―――。
慈愛の皇女が宣言した、夢物語。
日本人に自由をと叫ぶその主張の裏で、俺のささやかな自由が握りつぶされていたなど彼女は知りもしなかっただろう。
そして、お前も。
特区に参加しないかと誘ったその言葉が俺にとってはどれだけの毒だったのか、気付いていなかったんだろう?
俺は、お前に、裏切られたんだ。

「兄さん」

そこまで思いをめぐらせて、突然かけられた声にルルーシュははっと意識を取り戻した。
気付けば自分はクラブハウス内の自室に戻ってきていた。
そんなことにも気付かないほど感傷に浸っていたのかと思うと、馬鹿馬鹿しくなってくる。
「兄さん、無理してない?」
「…いや、大丈夫だ」
「嘘だ。兄さん、泣いてるもの」
「え…?」
その言葉に自らの指を目元へ運ぼうとしたが、ロロの行動のほうが早かった。
兄譲りの細い指が、ルルーシュの頬を濡らす雫を掬い上げる。
「気付いてなかったの…?」
ルルーシュを心配する優しい手つきがまるで彼そっくりで、錯覚しそうになってしまう。
違う、あいつとは違うんだ。
今俺の目の前にいるのはロロだ。あいつじゃない。
自分の頬を穏やかに撫ぜる指は、鍛え上げた無骨な軍人の指なんかとは違って、白く滑らかな指だ。
それなのにどうしてだろう。
何故彼の指のほうが心地良かったなどと感じてしまうのだろう。

「…っ…」
彼の存在を一度意識してしまったら、もう涙は止まらなかった。
一年前に枯れたはずの涙が次々にルルーシュの頬を濡らしていく。
その涙を見せまいとルルーシュは倒れこむようにして弟へと抱きついた。
「我慢しなくていいよ。兄さんが辛いなら、僕はずっとそばにいるから」
包み込むような優しい弟の声に、先ほどの自分の感情に罪悪感が溢れてくる。
「…すまない」
「謝らないでよ。僕は兄さんのたった一人の弟なんだから」
「違うんだ…!そうじゃなくて…」
「わかってるよ。あいつと重ねちゃうんだろ?」
「…っ…」
どこまでも優しい声は、かつて失った母のぬくもりを思い出させる。
「いいよ、兄さん。僕は構わないから」
「っ…ごめ、…ん…っ。今日…だけ…」
今日だけだから。明日にはまた笑って見せるから。
だから今日だけ、過去に縋る不甲斐無い俺を許してくれ。
目の前の相手に縋りついて、ルルーシュはただひたすらに涙を流し続けた。


「枢木スザク、…か」
すっかり泣きつかれて眠ってしまったルルーシュをベッドに横たえながら、ロロは呟く。
泣きはらした目元は赤く腫れあがりとても痛々しい。
ガラス細工を扱うような優しい仕草で、ロロはルルーシュの目元に触れる。
「裏切っておいて今更姿を現すなんてね。兄さんを傷つけた罪は重いよ」
ロロが静かに、しかし敵意を込めて言い放った声を、ルルーシュが聞き取ることはなかった。
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またまた妄想爆発、今度はロロルル→スザ。
略奪愛的なロロルルが書きたかったのに、何故かロロの出番が減りました。
ルルの独白をたくさん書いたからでしょうか…