※遙かなる時空の中で舞一夜のパロディです。
あかねちゃん→ルルーシュ、季史さん→スザク(中の人つながりw)
さりげなくルルーシュ女体化。
わかる人にしかわからないネタですすいません。





あ…
ぽつり、ぽつり、と空から落ちてくる雨の粒。
それはあっという間に激しくなって、あたり一面の地面を暗く濡らしてゆく。
突然の雨に家路を急ぐ人々の中で、ルルーシュは一人立ち尽くしていた。

「何やってるんだ…私」

何もしていないのに守られるだけの自分が悔しくて、力を持つのに使えない自分が嫌で、皆に八つ当たりした。
それで勝手に邸を抜け出して、一人でこんな村の外れまで来て。
あの人に会えたらと思ったけれど、それも無理なことだったと気付いた。
だって自分はあの人のことなど、何一つ知らないのだ。
名前も、住んでいる場所も、何をしている人なのかも。
数日前、町中に出かけた日、突然通り雨が降り出した時に出逢った人。
今日と同じように自分の無力さに涙を流して雨の中を走り抜けていた自分を呼び止めて、ただそっとやさしく衣を被せ、名前も言わずに立ち去って行った人。
泣いている理由を尋ねるでも、慰めの言葉をかけるでもなかったけれど、そのやさしさは間違いなくルルーシュを救ったのだ。
もう一度会いたい、お礼を言いたいと思ってあちこちをさまよってみたけれど、どこにいるかなんてわからない。
返そうと思って持ってきてしまったあの時の衣を胸の前に抱えたまま、ルルーシュはその場から動けずにいた。
「…っ……」
こみ上げてくる涙で目の前が滲む。
だんだんと雨足の強くなる雨。
さあさあと降りしきる雨にこの涙も流れてしまえばいいと、頭上を仰いだその時。

「濡れるよ」

背後からそっとかけられた声は雨に掻き消えそうなほど小さく、しかしルルーシュの耳にしっかりと届いた。
「あ……」
濃紺の狩衣を身に纏い、濡れるのも構わず雨の中に佇む人。
それはルルーシュがもう一度会いたいと願ったかの人だった。
「早くその衣を」
彼はルルーシュが抱える衣を指差す。
「あ、すまない。返そうと思ったのに、また濡らしてしまって…」
「構わない。それより早くしないと君が濡れてしまう」
やんわりとルルーシュの手から衣を奪い取って、ふわりと広げる。
そうしてルルーシュと自分を雨から守るようにそっと包み込んだ。
「良かった。あまり濡れていなくて」
「ありがとう…」
「君に会う時は、いつも雨が降るね」
安堵の息をついて、ふっと笑んだ彼の顔がすぐ傍にある。
自然と近くなった二人の距離に、ルルーシュの胸がとくりと高鳴った。
その胸の高鳴りを誤魔化したくて、ルルーシュは静かに尋ねる。
「あの、どうしてここに…?」
「わからない…」
「え?」
「自分が何者なのかも、どうしてここにいるのかもわからないんだ」
被った衣の僅かな間から見える薄暗い雨空を真っ直ぐ見つめて、彼はぽつりと漏らした。
自分の素性を語る口調に悲しみの色はない。
翡翠の双眸に宿る光は静かに凪いでいる。
それはまるで自分の自我などないとでも云う様で。
ルルーシュは彼が、とてもやさしくて、哀しい人だと思った。
「でも、ここに来れば君にもう一度逢えると思ったから」
「え?」

「君に、逢いたかったんだ」

そう言って彼は寂しそうに微笑んだ。
その笑顔が無性に寂しくて哀しくて、ルルーシュは胸が締め付けられそうだった。
「…自分がどうしてここにいるのかわからないって言ったな。私もそうなんだ」
ぽつりと、雨粒が舞い落ちるように零した声。
彼の理解できない話だとわかっていても、言わずにはいられなかった。
あるいはそれは、彼を慰めるというより自分のつらい気持ちを吐き出したかっただけかもしれない。
「どうしてこの世界に来たのか、自分が何をすればいいのか、全然わからないんだ」
どうして自分だったのか、どうして自分だけ守られるのか。
少しずつ、しかし確実に胸の奥に溜まっていった疑問。
それが堰を切って溢れ出すように、口から溢れていく。
「なんで、私が―――」
「僕たちは同じだね」
「え?」
「二人とも自分のことがわからなくて、一人さまよって。こうして雨に導かれて出逢った」
ゆっくりと、二人の視線がぶつかる。
刹那、時が止まったかと思った。
そうして瞳に映るお互いの姿をどれくらい見つめていただろう。
気付けば二人を同じ衣の中に閉じ込めていた雨は、ずいぶんと小降りになっていた。
「雨も弱くなってきたね…そろそろ帰ったほうがいい」
「あ…、また会えるか?」
すっと衣の中から離れていこうとする彼に、急いで声をかけた。
彼はルルーシュの問いに少しだけ目を見張り、驚いた表情を見せる。
しかしすぐにその顔はふわりと笑んだ。
「……ああ」
「私はルルーシュ。あなたは?」

「…スザク。枢木スザクだ」

二回目の二人の邂逅は、まだ僅かに雨の降る中、秘めやかに終わりを告げた。
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