私の名誉のために言わせて貰おう。
私はブリタニア皇帝に忠誠を誓った軍人であると。
私の任務はある少年の監視。そしてその記録をつけること。
命令を下したのは皇帝陛下。この作戦を指示するのは陛下直属の騎士であるナイトオブラウンズ。
いくら私が貴族といえど所詮は男爵。
彼らに逆らうという選択肢など私の中に存在しない。

だからだ。
これは決して私の本意ではない。
任務だからこなしているのであって、自ら望んでやっているわけではない。
というより任務でなかったら、今にも投げ出してしまいたいぐらいだ。
でなければ誰が好き好んであんな任務を受けるものか。
一体何故私が、あのような苦行に耐えねばならない!

別に監視だけならこんなに苦労はしないのだ。監視だけなら。
しかしそれはあくまで監視対象が普通の少年であったならの話。
まさか監視対象が、あんな生活を送っているとは。



7時45分、起床。 寝起きはいつものことながら良くない。
ベッドの上でシーツに包まりぼんやりと視線を彷徨わせるのもいつも通り。
そんな兄を見かねた弟が部屋に踏み込んできて、兄をベッドから引き剥がすのもいつも通り。

ここまではまだいい。

8時15分、朝食の席につく。
朝食は彼の弟が作ったもの。
食事の好みに偏りは見られない。

学生としては当たり前すぎるほどの朝の風景。
しかし、このあたりから私の苦行は始まる。

明るい朝の日差し降り注ぐダイニングで食事の席につく少年と弟。
「兄さん、朝ご飯どう?」
「ん?ああ、美味しいよ。ありがとう、ロロ」
穏やかに会話を交わす様子からは、仲の良い兄弟であることが窺える。
「よかった。不味かったらどうしようかと思った」
「お前が作った食事だ。不味いと思うはずないだろう?」
「そうかな?嘘はつかないでよ、兄さん」
「はは、俺は嘘なんかつかないよ」
「嘘だね。だっていつもついてるじゃないか」
「俺がいつ、お前に嘘をついたって言うんだ?」
心外そうに少し口をすぼめて言う兄に、弟は悪戯っぽく笑んで答えた。
「言っていいの?そりゃあもちろん、ベッドの中でいやだいやだって…」
「ほわあああ!」
手に持っていたナイフとフォークを取り落とし、叫びながら立ち上がる少年。
「朝っぱらからなんてこと言い出すんだお前!」
「だって本当のことじゃないか。昨日だって、散々気持ちいいって締め付けてきたくせに、最後までいやだなんて嘘ついて…」
「な、な、な…」
口をパクパクと開閉させるも、そこから零れ落ちるのは言葉として意味をなさない音だけ。
しかしその様子に満足したように、彼の弟はにっこり笑う。
椅子から立ち上がって兄の側までいき、両肩にそっと手を置いて顔を覗き込む。
「ああ、もう可愛いなあ、兄さん。食べちゃいたいくらいだよ」
「は?」
「ていうか食べていい?」
「なっ?え?あ、ちょっと待てロロ!おいっ!」
「やだよ。待たないからね、兄さん」
「おいどこ触ってる!?ってちょっと、ま、待て…あ、」
「ほんと可愛いなあ…」
焦って顔を赤らめるところとか、突発事項に弱いところとか、我が兄ながらなんて可愛いんだろう!
「や、やめろおおおおお!」
少年の必死の叫びは、部屋の中にこだまして空しく消えていった。



わかるだろう!?
別にこれが特別な朝というわけではないのだぞ!?
毎朝、毎朝、いつもこうなのだ!
こんな兄弟に付き合ってられるものか!
しかしながら、任務を与えられた身としてはそれを放り出すわけにもいかない。
だから、私は今日も耐えて任務にあたっている。
だがしかし、こんなものを毎日見せられているせいで患った胃炎を抑えるための胃薬は今日も手放せなさそうだった。
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