「なあ、一つ質問していいか?」
皇帝陛下との謁見の間からの帰り道のこと。
まるで迷宮のように入り組んでいる皇宮の廊下。
視界に入る色はどこもかしこも真っ白で、果てのないかと思わせるほど続く回廊は皇帝に敵意を持つ人間の侵入を防ぐのに一役買っているだろう。
その、ともすれば迷いそうな廊下を自分より半歩ほど後ろを歩いていく同僚に、ジノは唐突に話し掛けた。

「………」
ナイトオブセブン、枢木スザク。
初めて会った時から今まで、ほとんど崩れたことのない表情は今日も健在だ。
そして必要なこと以外ほとんど喋ろうとしないところも。
彼が自分の質問に返事をしてくれないことは最早日常茶飯事のこと。
こうやって黙るということは彼が質問を許してくれているということだとわかっていたので、別段気にせず会話を続ける。
「お前、ゼロと会ったことあるんだろ?」

“ゼロ”
黒の騎士団のリーダーにして、イレブンの支持を集め、帝国に反旗を翻し、日本独立を求めた反逆者。
その名前がスザクにとってのNGワードだということぐらいわかっている。
しかしどうしても一度聞いてみたいと思っていたことだったので、そこはあえて無視した。
だって俺、気になることを自分の内に秘めておける性格してないし。
「………それがどうした」
案の定、スザクの答えは冷たかった。
「おいおい、そんな怖い顔するなよ」
「聞きたいことがあるなら単刀直入にして。余計なことを話すつもりはない」
「はいはい、わかったよ」
スザクの機嫌を損ねるのは本意でなかったので、すぐに茶化すのをやめて真剣な表情になる。
「お前、ゼロのことどう思ってるんだ?」
ジノの無遠慮とも言える問いに、スザクはすぐに答えを返す。
「あいつは悪だ。ブリタニアの敵だ。殺さなければならない」
「俺達ナイトオブラウンズなら誰だってそう答えるさ。そうじゃなくてだな」
俺が知りたいのはブリタニアの騎士としての模範解答じゃない。
お前自身が、お前個人がどう思っているのか。
「どうしてそこまでゼロにだけ執着するんだよ、ってことだ」
ブリタニアの敵というなら、ゼロ以外に他にもいるだろう?
しかし彼の答えは変わらなかった。
「…俺があいつを殺さなければならないからだ」
「なんでそこまで熱くなる?お前を駆り立てるのは、例の皇女への忠誠か?それとも皇女の命を奪った男への憎しみか?」
「違う。責任だ」
「責任?」
「ああ」

そうだ、責任だ。
“ゼロ”
自らの手を汚さずに人を操り、自らの目的のために数多くの人を巻き込んで、犠牲にして、捨てて。
まさに悪魔の男。
倣岸で、卑劣で、狡猾で、傲慢で――――。
あいつの命はこの手で奪うと決めたんだ。
忠誠?そんなもの、死んだ人間に誓ってどうする?
憎しみ?そんなもの、とうに通り越してしまった。
お前の命は俺が貰う。
絶対にお前だけは赦さない。
決着をつけるのは俺の責任だ。

愛しい相手に語りかけるように、憎い相手を嘲笑うように、スザクは内心で嘲笑う。

だってそうだろう?
俺達は“友達”なんだから――――。

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