text内にある「夜道の邂逅」、「純情少女」の続きの話です。高校生スザルル(♀)




授業の終わった放課後、ほとんど人の来ないクラブハウス裏、そしてその場にはルルーシュと呼び出し人の二人っきり。
こんな絶好のシチュエーションは、所謂告白というやつだ。
ルルーシュはこれから起こることを予想して、内心で溜息をついた。

今までこうして呼び出されることがなかったわけではない。
本人が望む望まないに関わらず、ルルーシュの美貌と女王様気質の性格が、男子生徒たちにとって魅力的に映ることは否定しようのない事実で、こうして中庭だのクラブハウス裏だの放課後の教室だのに呼び出されて告白されるというのはこの学園に入学してから日常茶飯事となっていた。
だがルルーシュはその申し込みを常に断りつづけてきた。
以前であれば恋なんてと鼻であしらったルルーシュだったが、今は違う。
スザクが好きだと自覚してからは、好きな人に拒絶されることがつらいのだということを知った。
しかしそれでも好きな人でもないのに告白されても断るしかない。
なのでルルーシュは断って相手を悲しませるのも申し訳ないと考えて、こういう呼び出しをできる限り避けるようになった。
(もっともそうやって呼び出しを無視することでルルーシュのきまぐれな女王様イメージにさらに拍車がかかり、一部の男子達の熱をさらに上げていることに本人は気付いていない。)

だから今回の呼び出しも本当は逃げるつもりだった。
だがその呼び出しの手紙の差出人の名前を見た瞬間に、そういうわけにもいかなくなってしまった。

「ルルーシュ先輩…あの、」 自分をクラブハウス裏に呼び出した張本人が、目を潤ませながらルルーシュを見上げてくる。
そのお願いするような視線に見つめられるのが居たたまれなくてルルーシュは静かに視線をそらした。
「えっと…、あ、あの…、ル、ルルーシュ先輩のことが好きですっ!」
ほらやっぱりきた、と思ったものの、ルルーシュはそれを顔に出しはしなかった。
「わ、私と付き合ってくださいっ!」
ルルーシュがこの呼び出しを断れなかったその理由。
そう、ルルーシュを呼び出したのは、一年生の女子生徒だった。

「ありがとう。気持ちは嬉しいけど、私は女だし…」
「私、ルルーシュ先輩が女でも気にしません!」
「いや、でも…」
あなたが気にしなくても私が気にするんだ、と面と向かっていえたらどれだけ良かっただろう。
憧れの先輩を前にして興奮に震える後輩の姿に、ルルーシュは口をつぐんだ。
「私、ルルーシュ先輩のためだったらなんでもできます!だから、だから…」
「…ごめん、好きと言ってもらえるのは本当に嬉しいけど、やっぱり付き合ったりとかそういうのはできない」
なおもルルーシュへの思慕の思いを口にしようとする彼女を、ルルーシュは落ち着いた声で遮った。
ああ、きっとこれで悲しませてしまうだろう、と思ったルルーシュだったが、その予想を裏切って、ルルーシュを見つめる彼女の瞳から強い光が消えることはなく。
彼女は決然とした表情で、ルルーシュに問い掛けた。
「やっぱり、好きな人がいるからですか」
「えっ?」
一瞬言われた言葉の意味がわからず、ルルーシュは聞き返す。
「好きな人がいるから私とは付き合えないんですか?」
その言葉は真っ直ぐにルルーシュの心へと突き刺さり、何と言っていいのかわからなかった。
以前のルルーシュだったら、即座に否定していただろう。
好きな人なんていない、断ったのは好きな人がいるからじゃない、今は誰とも付き合う気はない。
ちょっと前まではすらすらと口をついて出てきたはずの言葉が、何故か口から出てこない。
「それは…」
「好きな人がいるから、私とは付き合えないんですね…」
「ち、ちが…」
「違くないです!」
いつの間にか彼女の瞳にはうっすらと涙が溜まっていた。
「どうして否定するんですか!」
「否定なんか…」
「誤魔化さないでください!」
彼女を泣かせたくないあまりルルーシュが濁した言葉に、彼女は過敏に反応する。
いまや彼女の表情は怒りに満ちていた。

「ルルーシュ先輩はスザク先輩のことが好きなんでしょう!」

「はあっ?」
突然の言葉に、ルルーシュはぽかんと口を開けることしかできなかった。
「やっぱり、そうなんですね…」
衝撃で動けずにいるルルーシュをよそに、彼女は悲しそうに顔を歪めながらも納得した顔を見せる。
ちょ、ちょっと待て。なんでそこで納得する!?
というよりなんで彼女がスザクのことを?
い、いや落ち着け。こういうときは冷静に相手に尋ねなくては。
「ちょっと待ってくれ。な、なんで私がスザクのことを好きだなんてそんな…」
「だってこの前、シャーリー先輩が教室でそう話していたって、皆が噂してます」
…やっぱりシャーリーが原因か。
この前ルルーシュとスザクの仲を誤解したシャーリーによって、あることないこと様々装飾された噂が広まってしまったのは記憶に新しい。
「それはシャーリーが一人で言っていただけで…」
「じゃあルルーシュ先輩はスザク先輩のことが好きなわけじゃないんですか?」
「い、いや、あの、その…」
「その態度…!やっぱりスザク先輩のこと好きなんですね!?」
「え?あ、ちょっと待て、違う!」
「もういいです!ルルーシュ先輩の気持ちはよくわかりました!」
「違う!ちょ…お願いだから待ってくれ!」
捨て台詞のように自分の言いたいことだけ告げて走り去る彼女を、必死に叫びながら追いかけたものの、運動神経が決して素晴らしいとは言えないルルーシュが追いつけるはずもなく。
翌日からルルーシュの恋についての噂が、またしてもアッシュフォード学園を震撼させたことは言うまでもなかった。

ちなみに後日ルルーシュ姉様親衛隊(隊員は女子のみ)が構成され、彼女達がスザクにまとわりついてルルーシュとの恋路を邪魔しようとしたのは別の話である。
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