text内にある「夜道の邂逅」、「純情少女」の続きの話です。高校生スザルル(♀)




「失礼します」
ちょうど仕事も一段落ついたから気分転換も含めてこれ届けてきて、と会長に押し付けられた書類を片手に職員室に足を踏み入れたところまでは良かった。
何の問題もなく書類を受け渡して、さあこのまま帰ろうと背を向けた時。
「あ、おい、ランペルージ!ちょっとこれ、生徒会に持ってってくれ」
また面倒事を押し付けられてしまった。

「失礼しました」
一応教師の前だから、と下手に口答えはしなかったが、はっきり言ってこれはないと思う。
まあ生徒会役員である以上仕事をこなすことに文句はないのだが、これはどうみても自分の手に余る仕事だ。
面倒だとかそんなことよりもまず。
お、重い。
生徒会への連絡事項のプリントだとか、生徒会企画のイベントの許可書類だとかが含まれた書類の山は体の前に抱えても胸の辺りまで達するほどの量で、見るだけでうんざりするほどだ。
ずっしりと手にのしかかってくる紙の山の重さに、体がふらつくのを必死でこらえる。

これ、生徒会室まで運ぶのか。
それを認識した途端、さらに気分がげんなりした。
職員室のある校舎から生徒会のあるクラブハウスまでは相当な距離がある。
まったく、肉体労働は苦手だというのに。
仕方ないと腕に力をこめて、ルルーシュは歩き出した。

途中までは何の問題もなかったのだ。
重ねられた書類の重さで多少腕はしびれていたが、普通に歩く分なら平気だった。
しかし、階下へ降りようと階段へ足を踏み出した瞬間。
「うわっ…!」
手に抱えた書類の重さに耐え切れずに、ルルーシュは盛大に足を踏み外した。
落ちる!
咄嗟に書類を手放したものの、受身は取れそうにない。
このままぶつかったら相当痛いだろうなと冷静に考えたその時。
「危ない!!」
ふわりと体を抱き寄せられて、背中に誰かの体温を感じた。
「あ…」
バサバサと書類が会談の踊り場へと散っていく中、ルルーシュは階段の一番上で踏みとどまっていた。

「大丈夫!?怪我してない?」
「あ…」
背後からの声で自分を抱き抱えている人物が誰なのかわかった途端、ルルーシュは顔が熱くなるのを止められなかった。
―――スザク。
そういえば彼のことが好きなのだと自覚してから、一度も彼とは会っていなかった。
そう考えるとこの状況がとてつもなく恥ずかしく思えてしまって、どうしたらいいのかわからない。
ゆっくりとゆるやかな拘束を解いて、スザクはルルーシュを階段の上まで引っ張り上げる。
心配そうに覗き込んでくる翡翠の双眸に、ルルーシュはやっとのことで答えを返した。

「だ、大丈夫…」
「それなら良かった」
言わなきゃ、また助けてくれたんだから。
ありがとう、って言えばいいんだ。
「…あ……う…」
「ん?なに?」
「……ありがとう」

もうほとんど声にならない声で言った言葉を、スザクの聴覚はちゃんと拾ってくれた。
「どういたしまして。やっと一番初めにありがとうって言ってくれるようになったね」
「え…?」
「だってルルーシュ、初めの頃はごめんって謝ってばかりだったじゃないか。一番最初にありがとうって言ってもらえるようになったのは、少しは君に近づけた証なのかなって思うと嬉しいんだ」
「あ…」

スザクは判っていて言っているんだろうか。
そんなこと言われたら、スザクを好きな気持ちは止められなくなってしまう。
スザクの言葉に顔を真っ赤に染めたルルーシュだったが、スザクが足元に散らばる書類に手を伸ばし始めてはっとなった。
「スザク、一人で大丈夫だから…」
「ダメだよ、さっき一人で運ぼうとして階段から落ちかけたじゃないか。僕に任せて、ルルーシュ」
「でも…」
「いいんだよ、こういう力仕事の時には素直に男に頼るのが女の子の役目なんだからさ」
爽やかなウィンクつきで言われたその言葉に、ルルーシュはさらに顔を赤くして俯き、それを見られないようにと書類を集めるのに必死になった。
Back / Top