「スザク」
「なに、ルルーシュ?」

「俺にキスしろ」

「え…?」
困惑により盛大に固まったスザクの表情に、ルルーシュは満足そうに笑う。
その笑顔がまるで自分を誘うかのように凄絶な色気に彩られて、スザクは思わず喉をごくりと鳴らした。

ふふ、動揺してるな。
自分に対する劣情を必死に押さえ込もうとするスザクの姿を見て、ルルーシュは一層その笑みを深くする。

いつもいつも人のことを翻弄してくれるお返しだ。
あの爽やかな笑顔の裏に何度だまされてきたことか!
聖人君子のような顔をして、それでも自分に対してだけは酷く我儘で。
正義だとか悪だとか、軍人としてそういうことに関しては何よりも自制と規律を重んじているくせに、自分の事に関してだけは自らを抑えてくれたことなんてないのだ。

それに付き合わされる俺の身にもなれ!
大体、たちが悪いのはあいつの言動なんだ!
「好き」だとか「欲しい」だとか、ストレートすぎる、あのバカ!

幼少の頃とはいえ皇族として暮らしていたルルーシュにとって、慎み深くあれというのは常識だった。
ルルーシュもその常識にのっとって、そういう色恋に関することなどは潔癖に育ったのだ。

それなのに、あいつは!
なんで聞いているだけで恥ずかしくなるような歯の浮くセリフを、臆面もなく言えるんだ!
そんなこと、人前で聞かせるべき言葉でないと何故わからない?
少しは慎みというものを持て!

そういって心の中でいつも毒づいてみても、自分の心は素直でその言葉に嬉しいと感じてしまうのだ。
自分の感情なのに、上手くコントロールできないことが一番悔しかった。

だから、仕返ししてやろうと思ったのだ。
いつも言葉で自分を翻弄するスザクを、逆にこちらが翻弄させてやる。
やられっぱなしというのは割に合わないだろう?
少しは俺の苦労を味わえ!

「…ねえ、ルルーシュ」
「ん、なんだ?」
ようやく俺の気持ちがわかったか?

「その言葉、後悔しないでよ」
「…え?」

スザクの言葉を理解しかねて、思考が一旦止まる。
その隙にスザクはルルーシュの体を抱き寄せていた。

「おいスザク!」
ようやくスザクの意図に気付いて、抵抗しようと体を動かすもあっさりと封じられて。

「煽ったのはルルーシュなんだから、責任とってね」
「ちょ、ちょっと待て!」
「待たない」
「俺はただ…」

お前に俺の苦労を教えてやろうと!
そう告げようとした言葉は発せられることなく、重なった唇の中へと飲み込まれていった。
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